【令和の断面】vol.148「ペッパーミルがバカ売れ」

令和の断面


「ペッパーミルがバカ売れ」

 WBC侍ジャパンの活躍で思わぬものが売れているという。
 コショウを引く「ペッパーミル」だ。
 調理用品を取り扱う東京台東区「かっぱ橋道具街」には、連日野球ファンが訪れて大小のペッパーミルを買って帰るという。
 もちろんスパイスとしてのペッパーが流行っているわけではない。
 いや、もしかすると料理店にペッパーミルがあれば、これまであまりコショウを使わなかった人も、あのパフォーマンスに影響を受けて料理にコショウをかけているかもしれない。

 ここまで書けば、もう、余計な説明はいらないだろう。
 突然、ペッパーミルが売れ出した理由は、今や侍ジャパン不動の1番打者、ラーズ・ヌートバー選手(カージナルス)が出塁した時に見せる「ペッパーミル・パフォーマンス」にある。

 ヌートバーは、侍ジャパン合流前から地元で「ペッパー・グラインダー」と呼ばれるコショウ引きのパフォーマンスを見せていた。ペッパーミルでグラインドされる(引きつぶされる)コショウのように「身を粉にして働く」というメッセージが込められている。

 ヌートバーのパフォーマンスが日本中で流行り出したきっかけは大谷翔平だ。
 WBC開幕前の強化試合で、大谷がホームランを連発した時に、ダイヤモンドを回りながらヌートバーの「ペッパーミル・パフォーマンス」を見せたので、これをメディアが一斉に報じて、今やチーム全員の約束事のようになっている。

 ヌートバーの代表メンバー入りに際して、本コラムで栗山英樹監督の周到な狙いについて触れたが、その狙い通り、見事にチームで機能している。

 ペッパーミルの売り上げ増進は、思わぬ副産物だが、グラウンド上ではヌートバーがチームの欠かせない原動力になっている。
 1番を任されているのも適任だ。
 国際試合のセオリーは初球から積極的にスイングを仕掛けていくこと。初対戦の投手は、追い込まれれば追い込まれるほど、対応が難しくなっていく。決め球の難しいボールが最後に来る。その前のカウントを取りに来るボールを早めに仕留めることが鉄則だ。
 国際試合に強いバッターは、初球からどんどん打っていく。
 ヌートバーは、その典型の打者であり、また打ち方自体がそれを叶える技術を持っている。肩の上にバットを寝かせ、そのまま余計な動きを加えずに振り始めることができる。スイング前の動きがシンプルなので、タイミングが取りやすく、またミートする確率も必然高くなる。

 センターの守備でも連日好プレーを連発し、攻守で大活躍を見せている。
 予選ラウンドのMVPを選ぶなら、ヌートバーとチャンスでことごとくタイムリーを打ち続けている吉田正尚(レッドソックス)を推したい。

 いよいよ負けたら終わりの一発勝負に突入していくが、この先もヌートバーの「ペッパー・グラインダー」が見られるかどうかに、侍ジャパンの浮沈がかかっている。

 このパフォーマンスをやりたいばかりに、料理店でのコショウの掛け過ぎにご注意ください(笑)。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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