【令和の断面】vol.154「バットを変えた大谷の狙い」

令和の断面


「バットを変えた大谷の狙い」

 「弘法筆を選ばず」とは言うが、野球選手のバットは選ばない訳にはいかない。
 長さや重さによって、まったく振った感じが違う。加えてグリップの太さは、1ミリ単位で、感覚が違ってくる。
 もちろんプロのバッターなら、どんなバットを持たせても、ヒットを打つくらいはできるが、毎日それを使って稼ごうとするなら、自分に合ったものを探さない訳にはいかない。

 エンゼルスの大谷翔平選手が、いままでのバットを変更したことがニュースになっているが、これも貪欲な向上心がもたらしたバットへのこだわりだろう。

 これまで大谷は、日本のアシックスのバットを使っていた。
 スペックは、
 長さ33.5インチ(85.09センチ)
 重さ32オンス(約907グラム)
 素材はアオダモ→バーチ(21年から)

 最近の野球界は、軽くて短めのバットを使うのが主流になっているので、これまでのバットは、日米でも標準的なバットだったと言えるだろう。

 それが今シーズンからは、メーカーをアメリカのチャンドラーに変更したのを機にバットの様式も大きく変えた。
 そのスタイルをひと言でいえば、ホームラン量産型のバットだ。

 新しいスペックはこうだ。
 長さ34.5インチ(87.63センチ)
 重さ32オンス(約907グラム)
 素材はバーチ→メイプル(かえで)

 注目すべきは、バットを1インチ(2.54センチ)長くしたことだ。
 これはかなり大胆な変更だが、もしこのバットがハマれば、いままで以上の飛距離を生むことになるだろう。
 バットが長くなれば、それだけ遠心力が働いて、打球が飛ぶようになる。
 しかし、この変更は「諸刃の剣」の側面があって、バットが長くなって操作性が落ちれば、ホームランどころかヒットの数さえ減る可能性がある。

 大谷は、長くなったバットを「より振りやすいものを選んだ」と表現しているので、感覚的にはこの長さに違和感がないようだ。背景には、年々向上しているフィジカル(体力&筋力)の充実もあるのだろう。バットが長くなってもそれを振り切れるスピードとパワーが備わってきたのだ。

 これは当方の想像だが、同じチャンドラーのバットを使うアーロン・ジャッジ(ヤンキース)が、35インチを使ってホームラン王(62本)に輝いていることも、大谷のバット選びに影響を与えているのではないかと思う。

 身長201センチのジャッジが35インチを使うなら、193センチの自分も34.5インチを使いこなせるはずだ。
 大谷がそう考えることに何の不思議もない。
 根底にあるのは、ジャッジに対するライバル心だ。

 素材のメイプルも、どの素材より硬いぶん、芯を喰った時の飛距離はさらに増す。

 弘法大師は、どんな筆でも上手に文字を書いたのだろうが、もし筆を選べば、誰も敵わない天下の筆さばきを披露した。

 大谷の新しい筆は、どれだけのアーチを描くことになるのか?
 4月23日(現地)のロイヤルズ戦で今季5号のソロホームラン。
 滑り出しは上々だ。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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