【令和の断面】vol.158「ジンクスを吹き飛ばせ」

令和の断面


「ジンクスを吹き飛ばせ」

 スポーツ新聞に載ったある見出しが気になった。
 健大高崎「5年ぶりV」
 その横には「ジンクスを吹き飛ばせ」とある。
 群馬県の高崎健康福祉大高崎高校が千葉県の木更津中央高校を破って春の関東大会で優勝したのだ。
 関東大会でチャンピオンになったにもかかわらず「ジンクスを吹き飛ばせ」。

 どんなジンクスなのかと紙面を探すと、その理由は以下のようなことだった。
「春関東王者、過去2度とも夏県大会敗退」

 健大高崎は、過去2回関東大会で優勝したことがあるが、その夏はいずれも県予選で負けて、甲子園出場はならなかった。
 そのジンクスを吹き飛ばせという内容だった。

 この記事を見つけて「なるほど」「さもありなん」と思ったのだ。

 春の関東大会を制するということは、この時期でもうすでにチームの戦力が相当充実しているということだろう。しかも県代表として他県のチームも圧倒するのだから、そのチカラは抜き出ていると言えるだろう。
 夏の予選が始まるまでに1か月ちょっとしかない。
 この戦力をしっかりキープしていけば、夏の県大会優勝も難しいことではないはずだ。

 にもかかわらず、健大高崎は2回とも県予選で負けている……?

 この記事に注目したのは、これが健大高崎に限ったことではなく、スポーツにおける「あるある」だと思ったからだ。

 こうしたジンクスに働いているものは、おそらくメンタルな作用なのだと思う。
 優勝することがもたらす達成感やそこから生まれる油断、あるいは優勝チームとして負けられないという過度なプレッシャーが選手たちの動きを固くする。
 つまりチカラは十分にありながらも、それを発揮することができない。

 そこにスポーツにおけるメンタル的要素の難しさがあるのだ。
 決して健大高崎が油断しているとか、慢心していると言っている訳ではない。
 これは、どこのどんなレベルのチームにも当てはまることなのだ。

 例えば、2年連続でセ・リーグのチャンピオンになった東京ヤクルト・スワローズもなかなか調子が上がらずに苦しんでいる。WBCに参加した村上宗隆選手たちの疲れも気になるところだが、優勝チームには健大高崎と同じようなメンタル的な難しさが働いているはずだ。

 勝って喜ばない人はいないし、どんな勝利でもうれしいはずだ。
 しかし、その結果が次の戦いを難しくする。
 大相撲の強い横綱は、優勝した次の場所も淡々と勝ち続けていく。
 これができるようで、なかなかできないことなのだ。

 日本には「勝って兜の緒を締めよ」という言葉があるが、これがまさに優勝チームのためにある戒めと言えるだろう。
 これは、誰にでも当てはまる、油断や慢心に対する警鐘なのだ。

 スポーツには、技術的な対決と一緒につねにメンタルの戦いがあるのだ。

 さて、この夏の健大高崎やいかに?
 そして、ヤクルトの巻き返しはあるのか?

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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