【令和の断面】vol.167「女子W杯長谷川唯が鍵を握る」

令和の断面


「女子W杯長谷川唯が鍵を握る」

 シドニー在住のI氏が議員会館を訪ねてきたのは、6月中旬だった。
 オーストラリアと日本の友好関係を研究するI氏は、日本での会合出席のために来日していた。I氏は、2000年のシドニー五輪で知り合って以来の友人だ。
 彼がプロモーションの意味もあって持ってきたのは、サッカー女子W杯のグッズ、カラフルな記念マフラーだった。
 今回のW杯は、お隣のニュージーランドとの共催。予選からニュージーランドとオーストラリアに別れて試合が行われるので、オーストラリア国内では、まだまだ盛り上がりに欠けるとのことだった。
 おまけに6月の時点で中継テレビ局がまだ決まっていない状態。
 I氏は、そうした状況を心配して、報告に来てくれたのだ。

 確かにこの時点では、日本でも「なでしこジャパン」に関する報道が少なかった。メンバーは発表されたものの、池田太監督率いる日本代表は初出場の若手も多く、注目が高まっているという感じではなかった。

 そのあたりの国内外の雰囲気を感じていたキャプテンの熊谷紗希は、「これが私たちの現状。本番で勝ち上がって、世界にその存在をアピールしていくしかない」と語っていた。

 静かに始まった今回のW杯だったが、熊谷キャプテンの言葉通り、「なでしこ」は1戦1戦その存在を世界にアピールしている。

 初戦(7月26日)のザンビア戦は、5対0(宮澤ひなた2,田中美南、遠藤純、植木理子)で相手を一蹴し、次戦(26日)のコスタリカ戦も2対0(藤野あおば、猶本光)で完封した。この連勝で早くも決勝トーナメント進出を決め、第3戦(31日)のスペイン戦も、4対0(宮澤ひなた2、植木理子、田中美南)で圧倒した。

 コスタリカ戦では代表初選出の19歳・藤野あおばが難しい角度からW杯初ゴールを叩き込んでそのシュート力を見せつけた。この試合ではベテランの猶本光も初ゴールを決めている。スペイン戦でも宮澤ひなたが第1戦に続いて2ゴール、植木理子、田中美南も今大会2点目を続いて落ち着いて決めた。

 ここまでベテランから若手まで満遍なくゴールを奪い、良い雰囲気で戦い続けている「なでしこ」だが、ゴールという形では目立たないものの素晴らしいプレーを見せているのが、「なでしこ」の司令塔、長谷川唯だ。
 埼玉県戸田市出身の彼女には、同じ埼玉県で育った青島ゆえに以前から注目していたが、今回のプレーは冴えわたっている。
 中盤でゲームを作る長谷川が機能して、ゴールにつながるパスを供給し続けている。また相手のボールを奪うディフェンスでも活躍し、攻守でチームに貢献している。

 ゴールゲッターたちが、順調にゴールを決めて自分の感覚をつかんでいる中、これからの戦いでは、より一層長谷川のパスが鍵を握ることになるだろう。スペイン戦の途中出場も、決勝トーナメントを見据えての配慮とみた。

 長谷川は「自分がゴールを決めるよりも、自分のパスや動きで誰かが点を取れた時の方が嬉しい」と語る。
 誰よりも周りを活かす選手だ。
 22年秋から英国のマンチェスター・シティーでプレー。
 世界のトップ選手たちとプレーしている経験も活かされることだろう。

 長谷川にボールが収まって、どこにパスが出るか?
 これからの戦いは、彼女のキラーパスに注目だ。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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