【令和の断面】vol.169「自由な頭髪を機に野球界の改革を」

令和の断面


「自由な頭髪を機に野球界の改革を」

 今回も猛暑の中での甲子園だったが、観ていて涼しいと感じる光景も数多くあった。
 例えば、選手たちの頭髪だ。
 丸刈りでない学校が目立った。
 慶應高校(神奈川県)は、丸刈りでない高校の代表だが、それ以外にも花巻東(岩手県)や日大土浦(茨城県)など強豪校でも今や普通に髪の毛を伸ばしている。
 丸刈りが時代遅れなどと言う気はまったくないが、野球界にもこうした自由が用意されることは良いことだと思う。

 そもそも丸刈りにどんな意味があるか?
 ひとつには、選手たちを野球に集中させ、余計なことに気を奪われないように……との狙いがあるのだろう。
 確かに、丸刈りにはそうした効果もある。
 僕等の時代(40年以上前)は、部室に常設されたバリカンでお互いに髪を切り合って仲間意識を高めた。丸刈りでは、学生服とユニフォームくらいしか似合う服もなく(当時の部員たちはそう思っていた笑)、結果的に野球と勉強に集中することになる。

 しかし、それは与えられたルールであって、自分たちで決めたものではない。
 当たり前のことだが、普通に髪を伸ばしていても、本人がしっかりしていれば野球にも勉強にも集中できるはずだ。
 ただ、あの時代は、昔からの伝統で野球部は坊主頭にするものだと決まっていた(笑)ので、多くの部員たちは何の疑問もなく丸刈りにしていた。

 あれから半世紀。
 時代は流れて、野球界も丸刈りが強制されるようなことはなくなってきた。
 広陵高校(広島県)などは、選手たちにどうするかを尋ねたところ、「丸刈りの方が格好いい」という意見が多数を占め、丸刈りで野球をやっているそうだ。
 これはこれで、格好いい。
 大事なことは、強制的に同じであることではなく、それぞれに自由と多様性が用意されていることだ。
 野球界が本来あるべき姿になってきたことは、球界の先輩としても嬉しい限りだ。

 しかし、そうした歓迎すべきことがある一方で、野球界では深刻な事態も刻々と進んでいる。もうかなり前から、小学生、中学生の野球人口が激減していることは、さまざま報じられてきたが、その影響がいよいよ高校野球にも波及してきている。

 先日、春日部高校(母校)のOB会に出席したが、そこで聞いた話は衝撃的だった。子どもたちも多く、昔から野球が盛んな地域でもあった埼玉県東部(東武伊勢崎線沿線)ですら、高校の野球部員が足りず、多くの学校が合同チームで大会に参加しているそうだ。

 もともと丸刈りをやめて普通に髪を伸ばして野球をやろう!という機運も、全国各地で野球少年の減少が伝えられて、何とか子どもたちを野球に取り戻そうという動きから始まったものだ。

 野球界では、全体主義のような丸刈りがどんどんなくなってきているが、一番の問題は、野球のスタイルそのものにもっと自由があり、創造的に野球に取り組める環境があることだ。具体的には、子どもたちに威圧的に接する昔ながらの監督像や指導法が、もっと合理的に改革されていくことだろう。
 その象徴が自由な頭髪ならば良いのだが、まだまだ野球界には昔ながらの変な伝統(長い練習時間、先輩後輩の関係、等々)がはびこっている。

 その改革は、まだまだ始まったばかりだ。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
バックナンバーはこちら >>

関連記事