【令和の断面】vol.177「クリケットの新時代が始まる」

令和の断面


「クリケットの新時代が始まる」

 2028年ロサンゼルス五輪の追加競技が決まった。
 ・野球・ソフトボール
 ・ラクロス
 ・スカッシュ
 ・フラッグフットボール
 ・クリケット

 どの競技団体も、五輪競技になることで新たな普及振興が期待されるだけに、この決定に沸き返っていることだろう。
 野球とソフトボールは、日本にとってはお家芸ともいえるスポーツ。どちらも東京五輪では金メダルを獲っており、24年パリでの不採用を乗り越えて、またまた世界中に野球・ソフトボールの素晴らしさをアピールしてもらいたい。

 メディア報道によると、28年ロサンゼルスではメジャーリーグが選手を出場させる方向で調整が進んでいて、現役メジャーリーガーが五輪で戦うことになりそうだ。そうなれば、大谷翔平や鈴木誠也をはじめとする日本人メジャーリーガーの参戦も可能になる訳だが、おそらくアメリカやドミニカをはじめとする中南米諸国もドリームチームで出場することになる。これはもう、予選から目が離せない大会になるだろう。

 追加競技の中で、もっともインパクトがあるのはクリケットだろう。競技人口はサッカーに次いで世界2位を誇っている。英国の発祥で、旧英連邦諸国では圧倒的な人気を誇っている。中でもインドでは、世界最大のクリケットマーケットが広がり、アメリカのメジャーリーグ並みに年俸30億円を超える選手が存在する。
 テレビもシーズンになると、クリケットが1番人気のコンテンツだ。

 これまでクリケットが五輪に参加してこなかったのには、いくつか理由があるが、そのひとつがもうすでに世界的に広がり、ビジネス的にも安定している組織運営ができていることが挙げられる。ICC(世界クリケット評議会)が集めた大会収益や放送権料を世界各国に普及度や競技力(強さ)に応じて配分している。
 JCA(日本クリケット協会)もそうして助成を受けながら活動している。五輪の力を借りなくてもクリケットワールドが出来上がっているのだ。
 しかし、今回クリケットが五輪競技に採用されたのは、IOC(国際オリンピック委員会)とICCの思惑が一致したからだろう。
 五輪に新たな魅力を注入したいIOC。グローバルサウス諸国でも人気が高いクリケットには、新たな観衆と多額のスポンサー収入が期待できる。
 またスポーツの多様化の中で、ICCはクリケットをさらに世界的なスポーツとして普及地域を広げていきたい。実は、日本もその対象になっているのだ。

 日本の競技人口は約1万人と言われているが、まだまだ国内では人気スポーツとは言えない。
 当コラムでも、日本人初のプロ選手になった宮地静香選手を紹介したが、男子の日本代表には、元プロ野球(横浜、広島、西武)の木村昇吾選手もいる。
 2032年ブリスベン五輪もクリケット強国のオーストラリア開催となれば、同競技の採用は間違いないだろう。
 そうなればクリケットへの関心は、これからどんどん高まっていくことになるはずだ。この機に日本のクリケットもしっかりとアピールをしていかなければならない。

 ともあれ、採用された5競技には、絶好の追い風が吹いてきた。

 国際オリンピック委員会(IOC)は16日、インドのムンバイで総会を開き、2028年ロサンゼルス夏季五輪の追加競技に野球・ソフトボール、フラッグフットボール、クリケット、ラクロス、スカッシュを承認した。大会組織委員会が提案した5種目全てが決まった。

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 野球・ソフトボールはともに日本が金メダルに輝いた21年東京大会以来、2大会ぶりに復帰する。フラッグフットボール、スカッシュは初実施。クリケットは128年ぶり、ラクロスは120年ぶりの復活となる。

 ◇ソフトボール 19世紀末頃、野球から派生した球技。野球同様に各9人(指名選手を活用すれば10人)の2チームが攻撃と守備を交互に行う。球場のサイズは野球よりコンパクトで塁間は18・29メートルで野球の約3分の2。投捕間は13・11メートル、ホームベースから外野フェンスまでの距離が67・06メートル以上。世界の競技人口は約3000万人、日本国内は約17万人。五輪は96年アトランタ大会で正式種目となり、08年北京大会まで実施。21年東京大会で追加種目として復帰したが、24年パリ大会では除外された。

 ◇フラッグフットボール アメリカンフットボールを起源とし、第2次大戦中の米軍でけがを避けるために始まったとされる。日本では1990年代後半から本格的に伝わった。ルールはアメフトと似ているが、タックルの代わりに選手が腰につけたフラッグを取る。4回の攻撃権が終わると、攻守が入れ替わる。2022年の国際総合大会、ワールドゲームズ(WG)で初採用され、日本女子は8チーム中5位だった。

 ◇クリケット 羊飼いの遊びが起源とされ、英国の国技として有名。インドなど英連邦諸国で高い人気を誇る。20年にインドのビラット・コーリの年収が2600万ドル(現在のレートで約39億円)と伝えられた。1チーム11人の2チームが対戦し、交互に守備と攻撃を行う。ウィケット(地面に打ち込まれた木製ポール)が倒されたり、ボールをノーバウンドで捕球されたりすると1アウト。10アウトまたは、規定投球数(大会によって異なる)に達すると攻守交代。1900年パリ五輪では2チームで争われ英国が金メダル。五輪は、試合時間が短い形式での実施を目指す。

 ◇ラクロス カナダの国技。北米の先住民が戦闘や娯楽として親しみ、17世紀の入植者が競技に発展させた。競技名は、フランス語で「杖(つえ)」の意。棒の先端に網が張られた「クロス」を使い、テニスボール大の球を相手ゴールに入れて得点を競う。男女とも1チーム10人。シュートスピードは、男子で時速150キロ超えも。男子は接触プレーが可能だが、女子は接触禁止。1928年アムステルダム、32年ロス、48年ロンドン五輪では公開競技として実施。2028年は6人制で提案された。

 ◇スカッシュ 英国発祥。19世紀から発展してきた室内スポーツ。テニスのようなラケットで壁に向かって軟らかい球をたたきつぶす(スカッシュ)ことから競技名となったという。1時間の消費エネルギーは、プロ選手で1500キロ・カロリーにもなる。約185か国・地域で親しまれている

報知新聞社2028年ロサンゼルス五輪の追加競技入りが16日に決まったことを受け、野球・ソフトボール、ラクロス、スカッシュ、フラッグフットボールの国内統括団体が取材に応じ、喜びの声を上げた。プロ野球の広島、西武などで活躍し2018年にクリケットに転向した杭州アジア大会代表の木村昇吾(43)=ワイヴァーンズ=は栃木・佐野市内で会見し、5年後のロス五輪代表入りを宣言。五輪舞台での競技発展を誓った。

 吉報は、大いなる出発点に過ぎない。木村は、日本代表の同僚らとIOC総会の中継映像を食い入るように見つめ、拍手で五輪復帰を歓迎した。まずは「喜ばしいこと。選手として、出場しにいくのは当然」と口にしたが、「それで終わるのは違う」と続けた。128年ぶり復帰が一過性の注目に終われば、未来はひらけない。「五輪競技になることはゴールじゃない。注目が増え、いい目もあれば厳しい目もある。これからどうしていくかが大事」と背筋を伸ばした。

 西武を戦力外となった17年オフ。球団施設でバットを振っていると、携帯が鳴った。親交の深い知人から、クリケット転向を勧める電話だった。「直感的に活躍する姿が浮かんだ。これはやるな、と」。野球で甲子園とプロを経験し、頂点を見た。一から、新たな頂へ。「野球のトップにいて、目指さない理由がない」と、トップ選手の年収が30億円超という最高峰のIPL(インディアン・プレミアリーグ)を目標に据えた。

 野球の原型と言われる競技。「ライナーやフライを素手で捕るので怖さはあったし、打ち方も全然違う」と振り返りつつ「ノックもたくさん受けてきたし、転向でそんなに苦労はしなかった」と、18年に日本代表入り。オーストラリア、スリランカなど強豪国を渡り歩いて力を伸ばし、杭州アジア大会では日の丸を背負った。「選手村も経験して、日本代表への重みや、感じ方が変わった。もっと勉強して、クリケットを知りたい」と向上心は尽きない。男子は、現在世界ランク50位。アジアには世界1位のインドをはじめ強豪が多く、6チーム出場の五輪は極めて狭き門だ。国際試合での強化や、選手層拡大も避けて通れない。「プロ野球を経験した選手が転向するのも歓迎したい。流れてくれば、世界を取れるスポーツだと思っているので。五輪の日本代表として、世界に行きたい」。大望が誘うまま、新たな道を極めていく。(細野 友司)

 ◆木村 昇吾(きむら・しょうご)1980年4月16日、大阪市生まれ。43歳。香川・尽誠学園高3年夏の甲子園出場。愛知学院大を経て02年ドラフト11巡目で横浜(現DeNA)入り。俊足と堅守が持ち味の内野手として活躍し、広島を経て17年西武を戦力外に。18年からクリケットに転向し、同年東アジア杯代表。22年W杯東アジア太平洋地区予選代表。23年杭州アジア大会でも代表入りし、1次リーグ1勝1敗で終えた。183センチ、78キロ。右投左打。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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