【令和の断面】vol.192「なぜ西武のキャンプインは遅いのか」

令和の断面

 2月1日からプロ野球のキャンプが始まっている。
 待ちわびたファンが、もう早速キャンプ地を訪れて、贔屓の選手に声援を送ったり、新人の動向に熱い視線を注いでいる。

 プロ野球選手にとって2月1日は、シーズンに向けてチームが始動する正月(元日)のような日であって、どこの球団の選手も真新しい気持ちでキャンプに突入する。
 もう65歳になる青島だが、2月1日の緊張感はいまだに体の中に残っている。
 それが一時(いっとき)でもプロ野球に身を置いた者の生理なんだと思う。

 ところが、そんな習慣が変わろうとしている。
 改革の主は、埼玉西武ライオンズの松井稼頭央監督(48歳)だ。
 西武のキャンプは、去年に続いて今年も2月6日からのスタートだ。

 去年は、開幕の前にWBCがあったので、シーズンインが遅かった。
 そこでその日程に合わせるように6日にスタートした西武だったが、今年も同じように6日からのキャンプインを採用したのだ。

 おそらく松井監督の頭にあるのは、日本よりほぼ1か月遅いメジャーリーグのキャンプインなのだろう。
 メジャーは2月末に投手と野手が別々に集まってコンディションを整えると、そこからは連日の試合で選手がふるいに掛けられていく。
 日本のように一日中チーム練習をするようなことはなく、基本的にはゲームを通して調整していくのだ。

 日本も試合をする時期がかなり早くなったが、それでも2月中は連携プレーやサインプレー、チームでの練習にたっぷりと時間を割く。
 またそうした練習が終わってから、雨天練習場で若手を中心に夜の練習があったりする。しかも「アーリーワーク」と称して、全体練習の前にも早出で練習したりする。
 とにかく朝から晩まで練習するのが、伝統的な日本のキャンプだった。

 そこに一石を投じることになったのが西武のキャンプだ。

 一日中の長いキャンプを経験した者として、松井監督の狙いは容易に想像がつく。長いキャンプは、どうしてもやらされている感がある。また若手は首脳陣にアピールするために、なかなか早く帰れない。もちろん練習は嘘をつかないし、若手に必要なのは圧倒的な練習量だ。
 ただ、長い練習にも弊害はある。
 疲れがたまってケガをする可能性が高まる。
 毎日の練習が惰性になってしまうこともある。
 創造的な練習をするには、心身ともにフレッシュであることも重要だ。

 長い練習は、多分に首脳陣の満足のために行われる側面がある。
 「あれだけやったのだから……」
 と、それが監督、コーチの安心材料になったりするのだ。

 松井監督のやり方で結果が出れば、日本野球のキャンプもかなり変わることになるだろう。

 合理的で効率の良い練習をする。
 休むときは、しっかり休む。
 これはプロ野球の「働き方改革」でもある。
 こうしたスタイルの練習が伝統的な習慣(長い練習)に勝てるかどうか?

 これもまた今シーズンの注目点である。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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