【令和の断面】vol.194「世界卓球で問われた不文律」

令和の断面

 韓国の釜山で行われている卓球の世界選手権(団体戦)。
 パリ五輪の出場権が懸かっているだけに連日熱戦が繰り広げられている。日本は1次リーグを4戦全勝としベスト16に進出。あと1勝すれば団体の五輪出場が確定する。

 そんな中で話題になっているのが、日本の戦い方だ。

 正直、私もこんな「暗黙のルール」があることを知らなかった。

 それは18日に行なわれた第3戦、対南アフリカでのことだ。
 第1試合に登場した木原美悠と第2試合出場の平野美宇が、それぞれ第1ゲームを11-0で完封した。
 この戦い方にクレームがついたのだ。
 卓球界では、昔から10-0になった時点で、リードしている選手が故意にミスをして相手に得点を与えるという暗黙のルールがあるそうだ。
 この不文律を日本の選手が守らなかったので、SNSなどで批判の声が挙がっているというのだ。

 なるほど……。

 こうした不文律は、他のスポーツでもある。
 例えば私がやっていた野球では、点差が大きく開いたら、「盗塁」や「送りバント」はしないという暗黙のルールがある。日本国内では、あまり意識されていないが、アメリカのメジャーリーグや国際大会では、いまでも配慮されている。
 というか、これを守らないと相手が死球などで報復してくる。ただ、この不文律が難しいのは、不文律だけあって明文化されていないことだ。だから、解釈の問題や現状認識の違いで、もめることがよくある(笑)。
 私の感覚で言えば、5回で10点差、7回で7点差つけば、暗黙のルールが発動する。しかし、勝っている方と負けている方で点差に関する受け止め方が違うので、ここまで大きな点差がなくても配慮しなければならないケースがある。この判断が難しいのだ。

 卓球の作法も野球の不文律も、これを絶対にやらなければならないというものではない。なぜなら、それがルール化されていないからだ。だから、それをやるかやらないかは、その選手やチームの裁量にかかっている。
 やらなくても何の問題もない。しかし、そこに批判の声が起こるのも受け入れるべき反応だ。
 また、これをやったからと言って、称賛されたりするものでもない。マナーとして当然のことをやるだけのことだ。

 コラムとしては歯切れの悪い結論で申し訳ないが、これはその選手やチームの価値観の問題であり、美学に関するテーマだ。
 形振り構わず勝ちたいか……
 格好よく勝ちたいか……

 日本的な価値観で言えば「粋」に纏わることだ。
 人知れず周囲に配慮する。
 自分だけ目立たない。
 相手の立場も尊重する。
 自然で流れるように行動する。
 極端を嫌う。

 私は、こうした日本的な配慮が好きなので、選手やチームにも「粋」を求める立場だ。だからスポーツを問わず、国を問わず、勝っている選手やチームには、こうした不文律をさりげなくこなして欲しいと思っているが、それを声高に叫んだら「粋」でないのでやめておこう。

 でも、私は、こうした極めて人間らしい文化(不文律)をこれからも守って欲しいと思っている。とくにスポーツは。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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