【スコアブックの余白】Vol.3 松井秀喜氏が秋広優人選手の成功を導いたら?

スコアブックの余白

■背番号55の後継者へ指導、6年ぶりの巨人キャンプへ 

 

 巨人、ヤンキースで活躍した松井秀喜氏が、6年ぶりに宮崎で行われている巨人キャンプで選手を指導した。ファンサービスも精力的に行いながら、後輩たちへの指導も熱心に行なっていた。

 今回の指導では、背番号55の後継者・秋広優人内野手に初めて指導した。秋広は2024年シーズン、左翼のレギュラー争いをしていく立場。相手は丸佳浩外野手や重信慎之介外野手、松原聖弥外野手らがライバルとなる。

 秋広は当然、持ち前の体の大きな体とパワーで打ち勝っていくしかない。2人の動きを見ていて、松井秀喜氏のスイングと共通している部分を感じた。それは懐の深さにある。バットとトップからボールを捉えるまでの距離が“深い”分だけとれるため、力がより強く加わる。共通の武器について話し合うことができた時間は、20歳のスラッガーにとっては大きな時間だった。

 6年前の宮崎では、悩める坂本勇人内野手へ助言を送っていたのが印象的だった。この時、松井氏はバットを構える時の両足にかける重心について、坂本と話をしていた。「こういう考えもある」と、構えた後ろ側に重心をよりおくことでパワーを溜める打撃の方法を伝えていた。その前後には岡本和真内野手とも話をして、指導をしていた。2人は松井氏の指導の効果もあり、この年以降、成績を残し続けている。

 指導する立場になって助言するポイントを松井氏に聞くと、簡潔に返答が来る。「たいしたことは教えていませんよ。選手に聞かれた時に『自分の時はこうしていた』とか成績を残してきた選手の例を伝えているだけです」とやみくもに技術を教えこむことはしない。

■メジャーの大砲、ヤンキース・ジャッジを指導していた時は?

 

 ニューヨークに住んでいる松井氏はヤンキースGM付き特別アドバイザーの肩書きを持つ。シーズン中は時間をみては、自分の車を運転して、ヤンキース傘下のマイナー選手を指導している。

 一時はそのメンバーの中に、現在のMLBを代表する打者になったヤンキースの主砲、アーロン・ジャッジ外野手もいた。「松井が育てた!」とメディアは報じたくもなるだろうが、松井氏がそのように口にすることはない。

 ジャッジへの指導も、アレックス・ロドリゲスや、デレク・ジーターなど、松井氏と同時期にヤンキースの打線を組んでいた名打者たちの例を伝えていただけだったという。成功は「ただ、ただ彼(ジャッジ)の努力」と称賛していた。

 秋広が今年、打撃面で成績が残せたら、この春のキャンプの出来事はクローズアップされるだろう。だが、松井氏は起用した阿部慎之助監督や二岡智宏ヘッドコーチへも拍手を送るだろう。そしてシーズンを通して活躍した背番号55に賛辞を送るはず。「ただ、ただ彼の努力」だと。

 海の向こうに、朗報が届くことを楽しみに待ちたい。

楢崎 豊(NARASAKI YUTAKA)
2002年に報知新聞社で記者職。サッカー、芸能担当を経て、2004年12月より野球担当。2015年まで巨人、横浜(現在DeNA)のNPB、ヤンキース、エンゼルスなどMLBを担当。2015年からは高校野球や読売巨人軍の雑誌編集者。2019年1月に退社。同年2月から5つのデジタルメディアを運営するITのCreative2に入社。野球メディア「Full-Count」編集長を2023年11月まで務める。現在はCreative2メディア事業本部長、Full-CountのExecutive Editor。記事のディレクションやライティング講座、映像事業なども展開。

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