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【スコアブックの余白】Vol.9 夏の高校野球 各都道府県で戦うことをメディアが「予選」と呼ばない理由

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    ■甲子園大会は目標だが、夏の大会はひとつの大会である位置付けを

     各地で熱戦が繰り広げられている夏の高校野球で、いつも気になることがある。地方大会の中継を見ているときや、インターネットなどで記事を読んでいると「夏の地方予選」「予選が繰り広げられている」などと「予選」というワードを使うことだ。

     神経質になっているのか、自分が会話をしている相手からも「予選が始まったね」「予選には取材に行くの?」などと聞かれるたびに、違和感を覚える。会話上で訂正は求めないが、自社のメディアでそのように扱っていたら、訂正を促し、編集部員には説明をしている。

     理由は大きく分けて、2つあると思っている。ひとつは各都道府県の高校野球連盟が各地方大会を独立させた大会としているから。つまり、予選ではなく、地方大会も本戦であるという認識だ。本戦で優勝した代表校が、甲子園でも行われる全国高等学校野球選手権大会に出場することができるという考え方だ(一部例外あり)。

     そして、もうひとつ。甲子園を目指すため、入学から2年半の期間、すべてを捧げている子もいるが、そうでない子も多数いる。その中でも一生懸命、野球に取り組み、夏の地方大会に懸ける球児もいる。両者とも、各都道府県の大会を思う熱量は同じだと思う。予選と捉えるのは甲子園出場の視点で見るからであって、この大会が集大成でもあり、高校野球生活の目標でもある球児にとっては、予選という言葉は相応しいものではない気がしている。

     私は先日、東西・東京大会の抽選会の中継をJ:COMの番組で解説を担当し、コメントをしてきた。注目校を紹介するコーナーに力を注ぐのだが、甲子園出場に近い有力校や、全国的に有名な東京の高校、プロ注目選手がいる学校ではなく、公立校や前年の悔しさをチーム一丸となって晴らす取り組みをしているチームなどを紹介した。

     さらには、中継を見てくれていた八丈島にある高校のコメントを紹介したり、昨年までは人数が揃わずに連合チームだったが、人数が出場規定に達して、単独チームで出場できるようになった学校、同好会から部に昇格したチームなど、特別な思いを抱いて、地方大会に出場した学校の名前を届けた。

     高校野球の地方大会も選手権大会である。甲子園に出られなかったからといって本戦出場していないことにはならない。その学年の集大成の場に辿り着けたことに価値があり、全員それぞれがその夏の主役なのだ。

    楢崎 豊(NARASAKI YUTAKA)
    2002年に報知新聞社で記者職。サッカー、芸能担当を経て、2004年12月より野球担当。2015年まで巨人、横浜(現在DeNA)のNPB、ヤンキース、エンゼルスなどMLBを担当。2015年からは高校野球や読売巨人軍の雑誌編集者。2019年1月に退社。同年2月から5つのデジタルメディアを運営するITのCreative2に入社。野球メディア「Full-Count」編集長を2023年11月まで務める。現在はCreative2メディア事業本部長、Full-CountのExecutive Editor。記事のディレクションやライティング講座、映像事業なども展開。

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