【令和の断面】vol.199「野球場はその国を映す鏡」

令和の断面

 今は国会議員をやっているが、かつての仕事柄抜けない習性がある。
 テレビでスポーツ中継を見ると、競技を問わずスタジアムやアリーナの仕様(全体のデザインや内装、観客席の様子など)を探すように見てしまう。これが海外の大会や試合だとなおさら気になってしまうのだ。
 それは、スタジアムやアリーナを見るとその国独特の文化や雰囲気が分かるのと同時に経済力がそこに映し出されているからだ。

 例えば野球。
 韓国で行われたMLBの開幕戦(ドジャース対パドレス)は、大谷翔平と山本由伸のドジャース勢とダルビッシュ有と松井祐樹のパドレス勢の対決で注目を集めたが、私がもうひとつ楽しみにしていたのは、韓国のスタジアムの様子やスタンドの応援スタイルだった。前述のように、そこに今の韓国が現れているからだ。

 私が初めて韓国に行ったのは、1982年。社会人野球のオール神奈川での遠征。親善試合を3試合くらいやったと記憶している。その翌年の83年には、野球のアジア選手権が韓国ソウルで開催され、出来上がったばかりの蚕室(チャムシル)の五輪球場でプレーした。
 五輪スタジアムは、88年のソウル五輪のために建設された最新のスタジアムで素晴らしい球場だった。
 内野は天然芝、屋根のない屋外の球場。
 それが当時のスタンダード(標準)だった。

 90年代にも韓国に行った。
 選手を引退した私は、スポーツライターとして韓国のプロ野球を取材した。
 ドーム球場はまだなかったが、人工芝のグラウンドが現れた。

 ソウル五輪を契機に生まれた韓国プロ野球は、90年代には大変な人気スポーツとなり、球場にもたくさんのファンが来ていた。

 2002年にもアジア大会の取材でプサンに行ったが、野球競技はこの時もまだドーム球場ではなく旧来型の球場で試合が行われた。

 そして今回のMLB開幕戦は、ソウルの高尺(コチョク)スカイドームで行われた。このスタジアムは、2015 年秋に完成し、以来、韓国プロ野球の本拠地として使われてきている。これまで国際試合を何度も開催しているが、MLB開幕戦はもちろん初めてのことである。
 韓国からもたくさんの選手がメジャーリーグに挑戦し、活躍しているので、観戦スタイルもメジャー流で慣れたものだった。
 7回には、観客が立ち上がって「Take me out to the Ball game(私を野球に連れてって)」を熱唱していた。

 はじめて韓国に行ってから40年。その間に訪れた野球場を振り返ると、韓国の目覚ましい経済発展が見えてくる。野球場には、その国の経済と文化が凝縮されているからだ。それは、もちろん日本にも言えることだ。
 スポーツ観戦に行ったら、ゲームだけでなく、飲み物や食べ物、トイレやその他の施設をチェックする。そうするとその地域の文化が見えてくる。それが海外ならなおさらだ。

 スポーツはどこの国でも、そこに暮らす人々とその国の文化を映す鏡になっている。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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