林昌範#2
「元プロ野球投手・林昌範が家族と描く未来 息子や娘へ託す思い」

HERO'S COME BACK~あのヒーローは今~

自動車学校で勤務する元巨人投手 林昌範がセカンドキャリアなどについて今の選手に伝えたいこと(インタビュー全3回) #2
現在、父親が代表を務める千葉県内の自動車学校に勤務している林昌範氏は巨人、日本ハム、DeNAで活躍した投手だった。フリーアナウンサーの京子夫人、一男一女を持つ父としても奮闘中。京子夫人はアスリートマイスターの資格を取るなど夫をサポートし続け、息子は父の血を引くように野球を始め、長女も夢に向かって走っている。家族と過ごす時間もかけがえのないものとなっている。(取材日・2024年3月5日)
 

■林昌範さんはプロ野球解説者と千葉・鎌ヶ谷自動車学校勤務に汗

――前回のインタビューでプロのマウンドでは興奮と不安があると言っていました。どちらの方が大きいのですか?

「不安の方が大きいですね。不安しかないと言ってもいいかもしれません。バッターは3割(打率)と言われますが、あそこに立って、打者を見たら、皆が打つように見えます。バットにボールが当たったら、何が起こるかはわからない。どんなに練習をして、経験を積んで、その不安がなくなることは最後までなかったですね」

――マウンド上は孤独ですね。一人ではないと感じることはないのですか?

「マウンドではないですが、家に帰るとありました。家族の存在は大きかったです。特に怪我をして手術を受ける時です。どうしても自暴自棄になることがある。戦列を離れてしまえば、自分のポジションだったところに代わりに入る投手がいる。その選手が活躍している姿を見るとどうしても…」

――前回のインタビューで恩師の高橋一三さんが言っていた「相手に意識が向いてしまっている状態」ですね…。

「はい。一三さんの言葉ではないですけど、失敗を喜んでしまう自分もいましたね。そういう日々が続いていくと、いい状態ではないです。でも、家族がいてくれたから、忘れさせてくれた。多分、いなかったら、『もう、いいや』とか『お酒を飲んで忘れよう』とか思う。でも、そういう姿は見せてはいけないと思うんです。応援してくれるファンがいる限りは。早く治してマウンド立たないといけない、と。なので、家族には救われました」

――日本ハムやDeNAでも怪我を理由に2軍降格した時期もありましたね。家族に弱音とか言ってしまうこともありましたか?

「愚痴を漏らすところは家族との時間しかなかったりしますね。家に帰って、自分や今の置かれている環境の愚痴、妻は妻が日々、感じているところでの愚痴もある。まぁ、もちろん愚痴だけではなく、家族4人の中で良かったこと、嬉しかったことなど、プラスの話もある。そうすると、いい時も悪い時も同じ方向性に向かっていっていることを感じられるので、いい時間です」

――テレビ局のアナウンサーだった京子さんは結婚を機に退職され、サポートされていましたね。

「アスリートフードマイスターなどいろいろな資格を取得して、私の体のことを考えてくれていました。帰ってきたら、家の様々な場所に料理本が置いてあったりもしましたね。勉強したんだろうな、と。まぁ、引退したら鍋の日が多いですが…(笑)。怪我をしないように、サポートしてくれたことは本当に感謝しています。子供も小さかったし、1日に何回も料理をしただろうし…」

――長男が野球を始めて、今も一生懸命、頑張っていると聞きました。

「僕がやりなさいと勧めたわけではないんです。野球をしたいと本人が幼稚園の年長さんの時に言ってきました。近所の野球チームは小学生からしか入れなかったのですが、見学をしに行ったら入団してもいいですよ、ということになりました。それまで野球もしたことがなかった。現役の時にキャンプに来て、投手陣がいるところ遊びに来て、ボールで同僚と遊んでいたくらい。体を動かすこと好きだったんです。僕はスポーツをするなら、なんでもよかった。入った時は頑張れよとは言いました」

■家族と描く未来、託す思い

――「頑張れよ!」と言ったくらいですか?野球についての干渉はしませんか?

「今もしていないです。1年に1回くらいはチームの野球教室を実施したり、バッティングセンターに一緒に行ったりはしましたけどね。あんまり僕がいうと、子どもが次の練習に行った時、お父さんにこう言われたとか指導者の人に言ってしまうと、監督やコーチが気を遣って、言いづらくなるのは、あまり良くないなと。素振りやキャッチボールをした時に褒めたり、どういうことやっているの?と聞いたりするくらいです」

――元プロ野球選手なので、技術的なことは教えたりはしないですか?

「技術的なことは一切ないですね。挨拶などの礼儀については口うるさく言っていますけど(笑)。息子は今、中学生で打つことが好きなので、バッティングセンターに連れていくくらいで、教えることはないです。それに今は全然、聞いてこないです。ただ、中学生になって、変化球はどうなの? どういう風に投げるの?みたいなことは聞いてきたりはしました。詳しくは教えていないですが」

――スポーツを通じて、子どもに手に入れてほしいものは?

「仲間じゃないですかね。一人じゃ勝てないし、いかにして仲間とチームが強くなるのかを考えて、プレーをしていってほしいですね。将来については妻とよく話をする部分は、私はプロ野球選手、妻はアナウンサーとお互いになりたいものになった人間なので、子どもに押し付けることはよくないよね、と。子供たちにいろんなものを見せてあげたいねという話はしています。長男も長女も自分の夢を持っているので、その夢をきちんと応援してあげたいですね。今は振り回されていますけど、子どもたちは楽しみながらやっている。夢を持ち続けてほしいです」

 
(第3回の自動車学校勤務に続く)

林 昌範(はやし・まさのり)

1983年9月19日、千葉・船橋市生まれ。市船橋高から2001年ドラフト7位で巨人入団。186センチ、80キロの長身から投げ下ろす直球やフォークを武器に、主にリリーフとして活躍した。08年オフに日本ハムにトレード移籍。2012年からDeNAでプレーし、2017年で引退。通算成績は421試合、22勝26敗22セーブ、99ホールド、防御率3.49。左投左打。家族はフリーアナウンサーの京子夫人と1男1女。

関連記事