林昌範#3
「“プロ”としてファンや地域に根付いた活動 経営者になっても変わらぬ思い」

HERO'S COME BACK~あのヒーローは今~

自動車学校で勤務する元巨人投手 林昌範がセカンドキャリアなどについて今の選手に伝えたいこと(インタビュー全3回) #3
巨人や日本ハム、DeNAで活躍した林昌範さんは、現在、千葉・鎌ヶ谷自動車学校で専務取締役として勤務している。教習所に来てもらえるように募集、営業をかけ、売上データを管理。スーツ姿でパソコンとにらめっこする時間が続く。この仕事に就いた経緯と、今の現役選手へセカンドキャリアについての助言を送る。(取材日・2024年3月5日)
 

――改めて引退後、自動車学校勤務になった経緯を教えてください。

「実家が自動車学校を経営しています。小さいころから私の身近にありました。引退して、継いでほしいと言われて、迷いました。野球しかやっていなかったので、イメージが湧かなかった。でも父が70歳を超える高齢になった姿を見て、自分がやれることはやろうと決めました」

――他にやりたいこともありましたか?

「トレーナーになりたかったので、大学に行って勉強をしたいなと思いました。最初は大学に通いながら、経営の仕事をさせてもらうことも条件に父の後を継ぐことを了承したのですが、自動車学校のやることが多すぎて…学校は半年も通えませんでした。自分も性格上、2つ、3つと同時に物事をこなせない。勉強をやっている場合ではないな、と」

――最初は何が大変でしたか?

「元プロ野球選手が会社に入ってきて、何ができるんだ?という周囲からの目ですね。今もそれはありますし、これからもずっとあると思っています。なので、自分なりにしっかりと考えを持ち、伝えることを大事にしています。他の経営者の方だったり、社外の方と話すときはどうしても野球がテーマになり、ビジネスの話をなかなか引き出せなかったりすると、ある意味、自分は悔しさを感じます。なので、経営者の人に認められるためにはどうすればいいかと、時事ニュース、経済、知識を入れていかないと対等には戦えないと思っているので、学ぶことは忘れないようにしています」

――2024年3月から鎌ヶ谷自動車学校の専務取締役。どのような業務が主ですか?

「運営全般や経理の面ですね。決算など、自分の言葉というのが最後になる。それで結果として出るので、その怖さはいつもあります。前まではその判断は社長である父だった。鎌ヶ谷自動車学校は最終決定するのは自分。発言には慎重になります」

――パソコンや、資料と向き合っている時間が多そうですね。

「ずっと、見ていますね。基本的には午前9時頃に会社に来て、午後8時くらいまで事務所や役員室でパソコンの画面を見ています。売り上げ、データ、資料作りです。解説など野球の仕事をいただけることもあるので、その時は先に全部、終わらせて球場に行ったりしています」

――売り上げの軸となる入校者の傾向などはわかってはきているのですか?

「生徒さんが入ってくると記入していただいた用紙が上がってくるので、データを入力しています。日々、キーボードを打っていて、動きがわかる。どのエリアから来てくれているのか、閑散期と繁忙期、差があることもわかっています。入校=売り上げのところはあるので、昨今の物価高も踏まえて、受講料を上げて行かないといけない。どうしたらいいのかを考えていますね」

――地域に根付いていく活動が必要とされますね。

「はい。なので、千葉県内の中学校に講演に行ったり、地元で野球教室を行ったり、自動車学校の名前や顔を知ってもらうようにはしています。経営者が集まるところにも参加しています。営業のような役割の仕事もそういう意味では多いですね」

――やりがいはどのようなところで感じていますか?

「生徒さん、お客様の声を一番に考えているので、あそこの教習所に行ったら、間違いないよと言われることですかね。それが最高の褒め言葉と思っています。プロ野球選手だった自分がコースに入って教えることはないですが、指導員の人もプロ。野球の感覚と一緒で、資格や技術が必要なので、信頼しているし、環境づくりが大切です。校内だけでなく送迎バスの中のことや、地域の中の役割も担っていきたい。ここにきてよかったと思ってもらうことはしたいと思っています。満足してほしいし、免許取得後は事故なく、運転をしてほしいですね」

――フィールドは変わりましたが、プロ野球選手と変わらない部分も大きい。

「僕の周りの野球選手の中には、現役生活が終わったら不安になるという人が多いですが、皆が思っている以上に、元プロ野球選手だった人を欲しいという企業は多くあります。すごく欲しがっている企業さんもあります。野球選手のイメージは、厳しい環境で揉まれてきた精神力、挨拶や礼儀もしっかりできるという部分。何もできないと思っているのは選手たちだけですよ。不安にならなくても求められる仕事はたくさんあると思う。だからこそ今は野球に集中してもらいたいですね」

――セカンドキャリアの不安、心配はそこまで感じなくてもいい?

「もっと安心してほしいです。まだまだ未熟者ではありますが、僕みたいなのでもなんとかやれています。今から勉強した方がいいですか?とか後輩たちに聞かれますが、そんなこと考えるなら野球をやれ!と思いますね。自分の後悔としては、本に触れておけばよかったと思うことくらい。なので、やっておいた方がいいと思うことは、いろんな人の言葉を聞いて、考えたりして、そういう時間に充てること。読んで、学んでおけばよかったと思う。移動時間とかたくさんあったわけですから。そこはちょっと後悔しています(笑)」

 
(終わり)

林 昌範(はやし・まさのり)

1983年9月19日、千葉・船橋市生まれ。市船橋高から2001年ドラフト7位で巨人入団。186センチ、80キロの長身から投げ下ろす直球やフォークを武器に、主にリリーフとして活躍した。08年オフに日本ハムにトレード移籍。2012年からDeNAでプレーし、2017年で引退。通算成績は421試合、22勝26敗22セーブ、99ホールド、防御率3.49。左投左打。家族はフリーアナウンサーの京子夫人と1男1女。

関連記事