【令和の断面】vol.206「カエルの捕食回避がすごい」

令和の断面

 NHKのEテレでやっている「サイエンスZERO 」という番組を時々見る。森羅万象、さまざまな不思議を科学の視点で解き明かしてくれる。毎回、「そうだったのか!」という気づきがあって、驚いたり勉強になったりしている。

 最近見たものは、「何だ、これか」と思わず膝を打った。
 テーマは、生き物の「捕食回避行動」だった。
 もし、動物がつねに天敵に食べられて(捕食)しまったら、その種は絶えてしまう。ある程度捕食されてしまうのは仕方がないとしても、何とか生き延びる方法を見出す。それが上手くできた個体だけが生き残っていく。
 番組では、独特な、あるいはとてもユニークな回避行動を紹介した。

 例えば鰻の稚魚。
 ドンコという鰻が大好きな魚に稚魚たちは食べられてしまうのだが、細い稚魚たちはいったん食べられてしまっても、ドンコのエラから逃げて出てくるのだ。

 またある昆虫は、カエルに食べられてしまっても、身体を玉のように丸くしてそのまま排泄されて出てくる。
 その時間、数分から数時間。どうやら消化される前にカエルの消化器を自ら動いて早く出てくるのだ。

 この日、もっとも興味深い行動を見せたのは、「蛇に睨まれたカエル」だった。
 「蛇に睨まれたカエル」は、絶体絶命のピンチ。何も策がなく、まったく身動きができない状態を指す慣用句にもなっている。
 ところが実態はまったく違うのだ。

 カエルは、動けないのではなく、動かない戦略で対抗しているのだ。
 蛇が近づいてきて、カエルに襲い掛かる。
 その瞬間、カエルは蛇の動きを見て、食べられない方向にジャンプするのだ。
 カエル(殿様カエル)が跳び上がって逃げるのに要する時間は「0.11秒」。
 それを蛇(シマ蛇)の動きに換算すると「6.4センチ」。
 つまり、蛇が近づいてきても6.4センチより遠いところから襲い掛かったならば、それから安全な方向に飛べば、蛇の一撃を回避できるのだ。そして、蛇が体勢を立て直して再び襲い掛かるのに必要な時間は「0.4秒」。この間に、カエルは次々とジャンプを繰り出して蛇の捕食を回避するのだ。また、蛇は動く物に反応するので、動かないでじっとしていることも大事な戦略なのだ。

 そんなカエルの動きに感動して、長々と書いてしまったが、これで思い出したのが双葉山の「後の先」の戦略だ。
 稀代の名横綱・双葉山は、立ち合いで自ら動くことはない。まずは相手の思うように立たせて、その動きに応じて効果的な戦い方を作っていく。
 この戦法、戦い方を「後の先」と称して、貫いていたのだ。
 双葉山がカエルの戦法を知っていたのかどうかは分からないが、まずは蛇を動かせて、その動きを見て対処法を考える。考えると言っても、それは一瞬の判断で、思考というより反応と言った方がいいだろう。

 近年では、横綱・白鵬がこの双葉山の「後の先」を理想に相撲を取っていた。

 双葉山、白鵬、両横綱がカエルのように回避行動を取るわけではないが、相手の動きを察知できれば、それに対する備えをして、つねに盤石な相撲を取ることができる。それが彼らの強さを支えていたことは言うまでもない。

 始まっている大相撲夏場所。
 そんな視点で立ち合いを見ると、なお一層大相撲がおもしろくなりそうだ。
 二日目から照ノ富士と貴景勝が休場したが、琴桜や熱海富士、大の里などが元気だ。果たして優勝の行方は?

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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