【令和の断面】vol.209「走る大谷を見逃すな」

令和の断面

 大谷翔平が止まらない。
 打率もホームランも好調だが、止まらないのは彼の足だ。
 日本時間2日のロッキーズ戦を見ていたが、3回に四球で出塁するや否や初球からスタートを切って、メジャーにおける自身100盗塁目をあっさりと決めた。
 日本人の盗塁記録で言えば、イチロー(509盗塁)、松井稼頭央(102盗塁)に次いで3人目の100盗塁を達成した。

 オフとキャンプから走り方とスタートを研究してきたそうだ。
 決して大きなリードを取るわけではないが、思い切りの良さとスタートダッシュは、193センチの選手とは思えない。おまけにスライディングも上手いので、ベースの前で減速するようなこともない。

 この日、マウンドにいたクワントリルは、クイックモーションで投げることもなく、大きく足を上げているので、いくら強肩捕手のディアスでも大谷は楽々セーフだった。

 もうひとつ注目すべきは、その成功率だ。
 何と「93%」。

 盗塁は、そもそもリスクを伴う作戦だが、これならチームにとって鉄板の進塁策と言えるだろう。

 ただ、この驚異的な成功率から導き出せることがある。
 それは、大谷がつねに相手投手に関する何らかの情報を持っているということだろう。

 実は、100盗塁を決めた直後、すぐさま3盗を試みたのだが、これは相手に警戒されて牽制球を投げられて塁間で挟まれてアウトになっているのだ。

 これも迷うことなくスタートを切っていたので、何か頼りにする情報があったのだろう。

 大谷は、個人の記録を伸ばすために勝手に走ったりする選手ではない。走ることがチームのためになる場面で盗塁を仕掛けてくる。つねにフォア・ザ・チームなのだ。だから逆に言えば、必ず成功する場面で走ってくる。

 想像するに、2盗も3盗も1球目から仕掛けているので、「クワントイルは1球目に牽制をしたことがない」というデータがあったのかもしれない。
 あるいは、何かのクセが分かっていたのか。

 それを裏付けるようにドジャースのロバーツ監督が、試合後にこんなことを言っている。

 「我々が確認していた傾向(クセ?)があった。上手く機能しなかったけど、それが野球。翔平はここまで素晴らしい」

 この後、ロバーツ監督はきっとデータ班に「そんなことを言わないで」と怒られたことだろうが、これをあっけらかんと言ってしまうのが、彼の、そしてメジャーの大らかさだ。

 走る大谷も、今や見どころの一つだ。
 今シーズンは、トリプル3(3割、30本塁打、30盗塁)か、40・40(40本塁打、40盗塁)の大記録が見られるかもしれない。
 たとえシングルヒットでも、塁上の大谷から目が離せない。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
バックナンバーはこちら >>

関連記事