【令和の断面】vol.218「日本勢を勢いに乗せた角田夏美」

令和の断面

 先頭バッターがホームランを打てば、そのチームは活気付く。そして終始試合を有利に進めることができる……。

 パリ五輪、それぞれの競技は、別の会場で行われていて野球のように連続して打席に入るは訳ではないが、日本のメダルラッシュは、この先頭バッターの金メダルで流れに乗ったと言えるだろう。

 開会式の翌日(27日)に行われた柔道女子48キロ級。
 パリ五輪で最初の決勝種目となった女子柔道で、日本の角田夏実選手がいきなり金メダルを獲得した。
 それも、その後に続く選手たちにとって、実にメッセージ性のある戦い方を貫いての栄冠だった。

 拘ったのは、「ともえ投げ」と関節技の「腕ひしぎ十字固め」だ。
 ここまで世界選手権3連覇中の角田にとって、「ともえ投げ」は彼女の代名詞にもなっていて相手から研究されるのは必至だった。
 それでも彼女は「今日は、どれだけ対策されても、こだわっていこうと決めていた」と腹を括っていた。

 もちろん相手の対策の術中にはまって負けることもあるが、この日の彼女には、相手を上回る覚悟と気迫があった。

 もうここまで来たら、自分のスタイルを貫くしかない。
 彼女を五輪まで連れてきてくれた得意技を信じるしかなかったのだ。

 この潔さが、迷いや不安を蹴散らしたのだろう。

 1回戦、2回戦は、「ともえ投げ」と「腕ひしぎ十字固め」で勝利。
 準々決勝で対戦したフランスの強豪ブクリからも「ともえ投げ」で一本。
 準決勝は、バブルファト(スウェーデン)の反則で勝ったが、決勝のバーサンフー(モンゴル)には、「ともえ投げ」を仕掛け続け、5回目の「ともえ投げ」で技ありを奪って決着をつけた。

 立ち技全盛。
 華麗な一本勝ちを目指す柔道界にあって、「ともえ投げ」から「寝技」に持ち込む彼女の柔道は、渋い職人気質の柔道だ。

 しかし、31歳になる角田は、この柔道に賭けて技を磨いてきた。

 最後は、自分のやってきたことを信じるしかない。

 その迷いのないスタイルは、後に続いた選手たちに引き継がれていく。

 柔道男子66キロ級の阿部一二三選手の連覇。
 スケートボード女子の吉沢恋選手が金メダル。
 スケートボードの堀米雄斗選手が連覇。
 体操男子団体で金。
 個人総合で岡慎之助選手も金。
 フェンシング「エペ」でも加納虹輝選手が金メダルを獲得。
 柔道男子激戦の81キロ級で永瀬貴規選手も連覇を達成。
 等々、みんな自分らしく戦った。

 角田夏実選手のロケットスタートで波に乗った日本。
 さあ、これから登場の選手のみなさん、自分を信じて頑張っていきましょう!

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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