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Vol.16 元ロッテ投手・島孝明さんがトライアウトで示したもの

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    (写真・本人提供)

    ■5年ぶりのマウンドで150キロを計測

     SNSを見ていた手が止まった。元ロッテ投手だった島孝明さんが今年で最後となるプロ野球12球団トライアウトに参加するというものだった。Xに投稿した写真はかつて背負った「40」のユニホーム。しまっていた思いと共に、取り出したという。

     LINEでメッセージを送った。真意を知りたかった。2019年に戦力外通告を受け、育成契約を打診されたが、契約せずに大学に行くことを決断した。国学院大で動作解析を学び、現在は慶大大学院に通っている。5年の月日が流れても、まだ26歳。現役復帰を考えたのか……

     答えは違った。お世話になった人への感謝の思いを伝えたい――ということだった。場所もゆかりのあるZOZOマリンスタジアム。千葉・東海大市原望洋時代、島孝明の名を轟かせたのも、今回トライアウトが行われるこの場所だった。

     高校3年時に150キロをマークしたことで注目を浴び、夏には早川貴久投手(楽天)のいた木更津総合に準々決勝で敗れ、涙を飲んだ。2016年のドラフトでは3位で地元球団のロッテから指名を受けた。故郷のファンたちは、未来のクローザーという思いを託していた。

     3年間で一軍登板はなく、静かにユニホームを脱いだ。怪我やイップスにも悩まされ、思うような投球はできなかった。応援してくれたファンや家族にこのマウンドで投げる姿を見せたかった。そんな思いが心の中で引っかかっていた。

     島さんはこの5年間で、客観的にフォームを見ることで現役時代よりも投げられるようになっていた。研究のために球を投げても球速は上がった。実際に投げられるようになった姿を見せることで恩返しになるのではないか、と考えたのだった。

     私は実際に球場で見ることはできなかったが、映像を見て、心が震え、涙が出そうになった。彼が18歳の時から取材をし、その苦労を見てきたから。そして、セカンドキャリアでも頑張ってほしいと願い、引退後も言葉を聞いてきた。そして、投じたボールは150キロを計測。度肝を抜かれた。ユニホームを脱いだ後の姿も追いかけて良かった、と心から思えた。ありがとうと伝えたい。

     投球後、一塁ベンチに目を向けると、ロッテ・吉井理人監督の姿があった。島さんが在籍時の投手コーチだった。親身になって相談に乗ってくれた恩人で、フェニックス・リーグではクローザーに抜擢してくれたこともあった。固く交わした握手には2人しかわからない思いが込み上げてきただろう。

     島さんは登板後、自信のXで「トライアウト応援してくださった皆様ありがとうございました。ブランクがある中での挑戦で終始緊張しっぱなしでしたが、ファンの声援を背にZOZOマリンのマウンドでピッチングできたことは非常に感慨深いものがありました」とつぶやいた。

     トライアウト。そこはNPBの舞台に戻ろうと必死に戦う男たちの戦いの場所。今回、島さんの目指したところは違ったかもしれない。でも、彼も覚悟を持って挑んだマウンドだった。そこへ挑んだ彼の姿勢に心からの拍手を送りたい。

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