福岡国際マラソン(12月1日)で2回目の優勝を果たした吉田祐也選手(27歳GMOインターナショナルグループ)のレースぶりとインタビューが清々しくスポーツの本質を見事に表していた。
2020年12月6日、この大会に出場した吉田選手は、2時間7分05秒でマラソン初優勝を飾った。
しかし、それから4年、思うような走りができない日々が続いていた。
何かを変えなければ……。
現状を打破するために彼が選んだ道は、母校・青山学院大学の練習に参加することだった。
その際、原晋監督からは厳しく問われた。
「甘えた考えで来るなら諦めた方がいい。世界選手権やその先のオリンピックを目指すのであれば受け入れるが、その覚悟はあるのか?」
吉田選手は、その覚悟を持って今年の1月から青学の練習に参加し、一から自身の走りを見なおした。
折しもこの日の解説を務めた原監督が、レース中何度も次のように吉田選手を評した。
「ずっと練習を見てきましたけど、決して手を抜くことがない。いつでも自分一人で練習することができる。吉田は努力の天才なんですよ」
吉田選手は、これまでの2割増しの練習を継続的にこなし、原監督に「日本記録を狙える」とエールをもらいこの大会に臨んでいた。
そして叩き出した2時間5分16秒。
惜しくも日本記録(鈴木健吾選手の2時間4分56秒)の更新こそならなかったが、日本歴代3位の好記録だった。
レースを振り返って吉田選手は言った。
「2020年に初優勝してから、この4年間と言うのはつらかったこと、悔しかったことがあまりにも多かったので…、言葉にできないんですけど、目標から遠ざかっていく自分が本当に嫌で、忌々しくてならなかったんですが、たくさんの人が支えてくれたから、今、こうしたレースができたんだろうと思っています。ありがとうございました」
途中、涙で言葉に詰まりながらも自分の思いを必死に紡いだ。
心に刺さったのは、自分に向けられた悔しさだ。
「目標から遠ざかっていく自分が本当に嫌で、忌々しくてならなかった…」
それはライバルや指導者に向けられる気持ちではない。
自分自身に対して今の自分をどう評価するかというものだ。
悔しい、忌々しい
だから練習するしかない。
それが純度の高い原動力になる。
そして彼はこう言った。
「まだまだこの力をもってしても世界と勝負することは厳しいかなと思っています。でも少しずつ良くなっています。必ず世界と戦う力をつけたいと思っています」
大切なことは自分を信じる力だ。
自分はやれる。まだ成長できる。
そう思えるからこそ、練習に立ち向かっていけるのだ。
30キロを過ぎてからは、独走状態だった。
このレースで吉田選手が追いかけ続けたのは、4年前の彼自身だったのだろう。
そして、その自分に見事に勝ったのだ。