(データの技術革新が止まらない野球界)
■数字だけに引っ張られず、人間ならではの駆け引きを大切にする姿勢が
プロ野球の世界では、データと技術の革新が新たな次元を切り開いている。現在はアナライザーの登場などでその精度と範囲が格段に広がっている。プロ野球選手たちの多くが、このデータ革命に対して驚くほど柔軟な姿勢を見せている。
高いレベルになれば、データを集めるのは簡単だが、集めたデータをどう生かすかが難しい。今や練習中のピッチングデータからバッティングの細部まで、あらゆる動きが最新機器で数値化される時代。しかし、重要なのは、データの量ではなく、どのデータを選び取り、いかに実践に活かすかという視点である。
トルピード・バットに関する議論は、まさにデータと実践の融合の好例だ。このバットはボウリングのピンのように途中が膨らみ、先端が細い独特の形状をしている。今季、メジャーリーグのヤンキースが開幕3試合で15本の本塁打を放ち、その多くがこのバットによるものだったことで一躍脚光を浴びた。スター選手も多く使用していることから、日本のプロ野球選手も次々と取り寄せている。
このバットは通常のバットより重心が2cmほど手前にある。先端を細くすることで重量を調整し、振り抜きやすくしている。理論上は飛距離が出にくい設計だが、振り抜きやすさによって結果的には同等の飛距離を実現できるという理屈が成り立つ。
プロの打者たちは、このバットを状況に応じて使い分けることができれば、さまざまなシーンに対応できるのではないか。普段は振り遅れがちなピッチャーに対して効果があるという意見もある。一生、同じバットを使い続ける選手もいれば、状況に応じてバットを使い分ける選手もいる。
相手投手の球種や球速、打席ごとの状況によってバットを変える発想は、ゴルフクラブのように用途に応じた使い分けを彷彿とさせる。バットの特性を理解し、科学的に使い分ける時代が到来しつつあると言えるだろう。
一方、データ活用を進めながらも、データ偏重への警鐘も鳴らされている。「人間的な駆け引きが有効になっていく」という意見も聞かれる。メジャーリーグの現場では、データに基づく戦術が画一化し、相手に読まれやすくなることがある。ワールドシリーズで同じ攻め方を続けて本塁打を打たれた例などは、データを超えた駆け引きの重要性を物語っている。
バットの革新にもデータの活用にも、最終的に求められるのはバランスだろう。新しいものを受け入れながらも、人間ならではの駆け引きを大切にする姿勢こそこれからの野球界に必要な視点なのだろう。努力の方向性がわかりやすくなるというデータの本質を見失わずに、伝統と革新のバランスを取ることが野球の未来を豊かにする。