HERO'S COME BACK~あのヒーローは今~

水野祐希#2
「なぜ?」を問い続ける指導
正解を教えず、自分で考える選手を育てる

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    ■ヤクルトで8年 捕手としての視点が生きる指導の現場

     東京ヤクルトスワローズで捕手として8年間プレーし、2013年に現役を引退した水野祐希。現在は佐賀アジアドリームズのバッテリーコーチ、女子硬式野球チーム「九州ハニーズ」のスタッフを務めながら、福岡の野球教室「ふるかうんと」で子どもたちを指導する。指導の根っこにあるのは「対話」だ。第2回は、なぜ、を問い続ける流儀と、捕手というポジションへの視点を聞いた。

    ――現在は指導者として、東南アジア出身の選手たちに野球を教えている。大切にしていることは。

     指導者の意図を、できるだけ細かく砕いて伝えることです。たとえばヒットエンドランのサインひとつ取っても、何をしなきゃいけないのか、目的は何か。「誰もが分かるだろう」と思って指導してしまうと、特に海外で野球を始めたばかりの子には意思の不一致が生まれてしまう。一年目でようやく自分自身がそれを理解できて、三年目を迎えて、少しずつ選手に浸透し始めてきた手応えがあります。

    ――技術指導では、量と質のどちらを重視しますか。

     今は情報が多い時代で「ランニングは必要ない」「筋トレは必要ない」などの情報も聞いたりします。その考えが間違いだとは思いませんが、「なぜ」を考えた時に自身の選択肢を狭めてほしくないですね。体力だけつけてもダメですし、技術だけあってもダメ。量と質は両輪だと思っています。
     特に若いうちは「量」が大事で「量」の中から「質」が見つかってくる。
     量から生まれた質は要領となり、知識が増え試合で考えて動けたり、身体が勝手に反応できるようになってほしいですね。

    ――指導者として、ご自身はどう学んできましたか。

     具体的なスキルは、福岡で野球指導者をされている元プロ野球選手の小林亮寛さんをはじめ、九州ハニーズ監督の宮地克彦さん、佐賀アジアドリームズ監督の香月良仁さん、コーチの香月良太さんなど、元プロの方とのディスカッションで学んでいます。ただ、一番大きいのはメンタルや考え方の部分でした。環境の変化が重なって、自分が一度落ちてしまった経験があるので、2020年あたりからは手当たり次第に、考え方のようなものを学んでいます。よく「分からないことがあったら聞きなさい」と言いますけど、僕の経験上、子どもは分からないことが分からない。だから、まず確認をしてください、と。「これで合ってますか」と確認する。聞くのも技術、聞くことを恐れず、恥ずかしがらず、まずは興味を持つこと、また興味を持ってもらうこと。その土台がないと指導も入っていかないと、いまは思っています。

    ■「なぜ?」を重ねる教室 正解ではなく、問いを渡す

    ――福岡の教室では、どんな指導をされているのですか。

     ただ「こう打て」と理念を共有するのではなく、なぜその打ち方をしたほうがいいのか、を一緒に考えていく教室です。たとえば「監督にバットを寝かせて打てと言われた」という質問が出る。なぜそうしなきゃいけないの、と聞くと、ほぼ百パーセント「監督に言われたから」と言うんですよ。じゃあなぜ監督に言われたと思う?と聞いて、体が開くのが早いからか、ならなぜ体が開いたらダメなのか、と問いを重ねていく。正解を求めるわけではありません。うまくディスカッションできたとき、自分で考えてプレーができる。それが長く野球を楽しく続けられるコツなんじゃないかと思っています。

    ■息子には教えない 唯一聞かれた「ワンバンの止め方」

    ――息子さんも野球をされているそうですね。

     もともと釣りが大好きで、僕は一切「野球をやれ」と言わなかったんです。ところが、去年たまたまドリームズの開幕三戦目を見に来て、選手の盛り上がりと初勝利の雰囲気を見て、「俺、中学になったら野球やるわ」と言い出した。入った中学の監督が偶然、僕と面識のある方で、「お父さんですか」となった数日後から、息子はもう捕手をやっていました。(笑)ただ、野球のことはこちらから一切教えません。本人の自立、興味を尊重したいので。

    ――それでも、教えたことはあると。

     唯一あったのが、試合前夜の夜八時に「明日一年生の試合があるからワンバンの止め方を教えて」と聞いてきたときです。僕も嬉しくなって教えていたら、妻が見に来て「今聞いて明日できるようなものじゃない、なんでもっと早く聞かないの」と(笑)。それくらい僕は教えないし、息子も気を使っているのか、聞いてこない。でも、たまに見に行くと「こんなボールが取れるようになってるんだ」と子どもの成長の早さにはいつも驚かされます。

    ――そのワンバウンドの止め方は、どう伝えたのですか。

     キャッチングの延長線上にワンバウンドがある、という考え方です。取りに行くのではなく、ミットを真下に落として、両膝を落とす。「取る」のではなく「当てる」。ボールが来るラインにまずミットを落として、そこに両膝を持っていく。みんなワンバウンドになった瞬間、体で先に止めに行こうとするから、ボールが下をくぐってしまうんです。また、安全面では金カップも絶対にしたほうがいい。捕手になってすぐ息子に急所を守るカップをプレゼントしました。これは経験者だから気づけたことかもしれませんね。

    ■「キャッチャーに野球の主導権があるのではないか」

    ――あらためて、捕手というポジションの魅力はどこにありますか。

     実は、選手のときはこの面白さを感じきれなかったんです。指導者になって、これだけ面白くて責任のあるポジションなんだと。野球は基本的に、何かにタイミングを合わせなきゃいけない競技なんですよね。バッティングも盗塁も守備も、相手やボールにタイミングを合わせる。唯一、自分のタイミングで投げられるのがピッチャーですが、そのピッチャーはキャッチャーとのサイン確認が先にある。サイン確認がなければピッチャーもキャッチャーとタイミング合わせる必要がある。つまり、キャッチャーが野球の主導権を握っているんじゃないか、と。だから扇の要なんて表現されると思うんです。

    (第3回に続く)

    水野祐希(みずの・ゆうき)

    愛知・東邦高校では捕手として2005年に主将を務め、第77回選抜高校野球大会でチームのベスト8進出に貢献。同年秋の高校生ドラフトで東京ヤクルトスワローズから4位指名を受けて入団し、2006年から2013年まで捕手としてプレーした。現役引退後は2014年から二軍マネージャー・副寮長を務め、2018年に退団。2021年、福岡で室内練習場を拠点とした野球教室「ふるかうんと」を開設し、翌2022年には女子硬式野球チーム「九州ハニーズ」のバッテリーコーチに就任。2024年からは佐賀アジアドリームズ(旧・佐賀インドネシアドリームズ)のバッテリーコーチを務める。福岡在住。

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