HERO'S COME BACK~あのヒーローは今~

水野祐希#3
言葉の壁を越えて3年目
佐賀に集うアジアの選手たちと描く野球の未来

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    ■通訳を介した1年目 言葉の壁と向き合い続けたバッテリーコーチ

     2013年、右肩の負傷で現役を退いた元東京ヤクルトスワローズの捕手・水野祐希。2024年から佐賀アジアドリームズのバッテリーコーチを務め、女子硬式野球チーム「九州ハニーズ」や福岡の野球教室「ふるかうんと」でも指導にあたる。野球の価値は、勝ち負けの先にある――。最終回は、言葉の壁と向き合いながら、国境や性別、世代を越えて広がる可能性について聞いた。

    ――佐賀アジアドリームズで指導を始めた当初は、どうでしたか。

     英語は高校のとき成績が2でしたから(笑)。通訳の方はいますけど、通訳を介すと一分で終わるミーティングが五分、十分かかってしまう。野球独自のニュアンスが果たして伝わっているのか、という思いもあって、一年目は言葉の壁を最大限に戸惑い、苦戦しました。やりたいことが何もできなかった印象です。いまも乗り越えたとは言えませんが、海外の選手も日本にいるうちに少しずつ日本語を覚えてくるので、短いやり取りなら通訳なしでいけるようになった。それがようやく三年目です。

    ――海外の選手とは、どう向き合っているのですか。

     彼らは正直、野球は下手です。投げる、打つなどのポテンシャルは高いものを感じます。しかし「野球」という競技をまだまだ理解できない部分が多いです。それでも、日本に来て野球することを選択してくれているだけで最大限のリスペクトをしている。そのリスペクトがベースにあるので、どう伝えたら理解してくれるだろう、と考える。今日は調子が悪いなと思ったときも、本当に不調なのか、家に(母国)帰りたいのか、ちゃんと日本でご飯を食べられているのか。まずそこを見たり、聞いてから、「大丈夫か」と声をかけ、相手を理解してから指導するようにしています。

    ――このチームに、どんな可能性を感じていますか。

     可能性を挙げたらきりがないんですけど、海外の選手が日本の細かい「野球」を学んで、国に帰ったときにその国のレベルが上がる。アジア圏のレベルが上がれば、巡り巡って日本の可能性も広がるんじゃないかと思います。日本の小中学生にとっても、カンボジアやパキスタンの子と触れ合おうと思ったら、本来はその国まで行かなければならない。それが佐賀のここに来れば、いろんな国の選手と出会えて、野球という共通言語でコミュニケーションが取れる。日本の子の、いい面でも悪い面でもある「恥ずかしさ」が一つ取れて、新たなコミュニティが広がるんじゃないかと。僕自身、英語なんて喋れなかったのに、いまは佐賀に行くのが楽しいんです。

    ――実際に、交流を経験した生徒さんの反応は。

     イベントや課外活動を定期的にやるのは、正直なかなか難しいのが現状です。ただ、一度、高校に入る直前の生徒を連れてきたことがあって、すごく親御さんに喜んでいただけました。高校に入る前に、こういうコミュニティに参加できたことは、これから進む、高校野球という厳しい世界に入る本人にとってすごく貴重な経験になった、と。そういう可能性もあるんじゃないかと思います。

    ■女子野球「九州ハニーズ」でも 二軍マネージャー経験を裏方に生かす

    ――女子野球チーム「九州ハニーズ」にも関わっておられます。

     川端慎吾の妹の川端友紀さん(元野球女子日本代表・元女子プロ野球選手)が立ち上げたチームで、立ち上げ当初から2年コーチを務め、今年(2026年)から3年ぶりに運営スタッフとして復帰しました。野球の指導や運営面では、宮地さん、小林さんの存在がすごく大きい。いまはコーチとしての指導よりも、ヤクルトの二軍マネージャー経験を生かして、イベントなどのスケジューリングといった裏方の仕事を主にサポートしています。たまにバッテリーを中心に指導することもあります。女子野球界がさらに拡がり、発展するサポートができるようコミュニケーションを大切に取り組んでいくことを心がけています。

    ――女子野球には、競技を離れた後の課題もあると感じますか。

     女子の子たちも、野球をやった後どうするのか、というところがあります。お母さんになることもあるでしょうし、就職することもあると思います。野球をしながら、女性としても社会人としても成長できたら最高だなと思いながらやっています。可能性はありますが、どちらも課題は山積みで。それを解決するには、やっぱり人との縁「球縁」が不可欠なのかなと思います。

    ――木曜・金曜は教室、土日はチーム。休みのない毎日ですね。

     毎日、佐賀でドリームズか女子野球が入っていて、教室は木金しかできていません。シーズン中は、現役の頃と同じで休みなし。個人事業主なので、逆に空白が怖いんです。たまの空白は、家族との時間「ファミリーデー」にするようにしています。

    ■休みなしの日々を支える家族 「ほかではできない経験をさせてあげたい」

    ――休みを返上してまで続ける原動力は、どこにあるのでしょうか。

     いちばん大きいのは、家族の理解です。土日を返上して試合に行っても、「今日どうだった」「おつかれさま」「試合頑張ってね」と言ってもらえる。その理解があるから続けられている。加えて、家族にもっといい体験、ほかではできない経験をさせてあげたい、というのが原動力になっています。

    ――最近、家族に見せてあげられた景色は。

     佐賀のチームに連れてきて異文化交流ができたのは、ほかのお父さんにはできないことかなと。妻は辛い物が好きなんですが、チームのコーチにスリランカのカレーを作ってもらって、家族みんなで食べました。日本のカレーとは全く違う、マイルドとスパイシーの二種類。辛さの表現がこんなにあるのかと驚くような、一度経験しないと分からない味でした。ドリームズの選手をプロ野球観戦に招待したこともあります。息子は野球部に入る前にチームで始球式をさせてもらいましたし、三歳の娘はチームの応援歌を家でも保育園で口ずさむようになって。そういう文化交流もできて、本当にありがたい毎日です。

    (終わり)

    水野祐希(みずの・ゆうき)

    愛知・東邦高校では捕手として2005年に主将を務め、第77回選抜高校野球大会でチームのベスト8進出に貢献。同年秋の高校生ドラフトで東京ヤクルトスワローズから4位指名を受けて入団し、2006年から2013年まで捕手としてプレーした。現役引退後は2014年から二軍マネージャー・副寮長を務め、2018年に退団。2021年、福岡で室内練習場を拠点とした野球教室「ふるかうんと」を開設し、翌2022年には女子硬式野球チーム「九州ハニーズ」のバッテリーコーチに就任。2024年からは佐賀アジアドリームズ(旧・佐賀インドネシアドリームズ)のバッテリーコーチを務める。福岡在住。

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