かつお君が引退を決めた。
サザエさんの「かつお君」に似ていることから、「かつお」の愛称でチームメイトはもちろんファンからも親しまれた東京ヤクルトスワローズの「小さな大投手」石川雅規投手(46歳)が、25年に及ぶ現役生活にピリオドを打つことになった。
ヤクルトが誇る左腕が残した成績は188勝194敗。24年連続勝利はもちろんプロ野球記録である。
石川投手に会うと、私はいつも言っていた。
「60歳まで投げようよ。かつお君なら絶対大丈夫。そうすれば200勝も通過点だよ」
それは冗談ではなく、彼なら本当に60歳まで投げられると思っていたし、200勝も軽く超えていくと思っていたからだ。
何の根拠もなく雰囲気で言っていた訳ではない。
身長167センチは、球界でも最も小柄な投手の一人だ。
それでも彼がここまで活躍してきたのは、体力に頼らない頭脳派投手だったからだ。
そこにあるのは、人一倍の負けん気と旺盛な探求心。
引退の会見でも彼はこう言っている。
「プロ野球は無差別級だと思う。よく『小さいから大変だね』とか『頑張っているね』とおっしゃってくださいますけど、僕はこの体しか知らない。大きい選手に勝ちたい、負けたくない思いが根底にある。その中でいろいろなものにアンテナを張りながら自分の体で実験しながらやってきた」
そう、ストレートも決して速い訳ではない。
基本的には130キロ台のボールだ。
しかし、球速だけがピッチャーの武器ではない。
変化球を交えることで球速以上にストレートを速く見せる技がある。
また130キロ台のストレートでも、厳しいコースに投げることで打者の打ち損じや手を出しにくいボールにすることもできる。そうしたあらゆる工夫を凝らすことで石川投手は25年間、無差別級の世界で戦ってきたのだ。
だから私は、その技術を駆使すれば、60歳までだって投げられると思っていたのだ。ただ、年齢からくる老いや故障は、彼にも確実に来ていたのだ。
今シーズン初の一軍先発マウンド(8月27日巨人戦)。
なんとか1アウトは取ったもののいきなりの6失点。左肩に痛みを覚えて1/3回で緊急降板となってしまった。そして潔く進退を決断したという。
「勝てなかったらやめる、気持ちのところで頑張れないとなったらやめるしかないといつも思っていた。マウンド上で肩ひじが痛くなったら、もうそこまでかなという思いもあった。投げ終わりにいろいろ考えることがあった。家族にしっかり気持ちを伝えて、登板の日に(引退を)決断しました」
気持ちで戦ってきた人。
技術で投げてきた投手。
その小さな大投手も、肩を痛め、そこを潮時と考えたら、もう戦うことはできない。これも頭脳派らしい冷静な判断だと思う。
彼を励ます意味で、私は会う度に「60歳まで投げて!」と言い続けてきたが、今は心からお疲れさまと言いたい。
そしてこんな彼の言葉を聞いて心の底からうれしく思う。
「いやー、本当に楽しかったですね。すごく楽しい25年間でした。大きなはなまるをあげたいです」
かつお君、ヤクルトを長い間支えてくれてありがとう。
令和の断面
青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
