令和の断面

vol.274 淡々といきなさい

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     大相撲秋場所、千秋楽最後の二番は相撲の魅力と難しさが詰まった興奮の内容だった。
     本割の最後の一番は、横綱大の里(13勝1敗)と横綱豊昇龍(12勝2敗)の対戦。豊昇龍が勝てば両者による優勝決定戦にもつれ込むことになる。
     ここまでの対戦成績は、豊昇龍が6勝2敗と大の里を圧倒している。
     しかし、テレビ解説の尾車さん(元大関琴風)は言った。
     「ここまで来たら、これまでの対戦成績は当てになりませんよ」
     優勝が懸かった一番は、それだけ特別な相撲だということだろう。
    
     数えきれないほどの懸賞のぼりが土俵を回っているうちに時間一杯になった。
     注目の立ち合い。
     先に両手をついて豊昇龍の体勢が整うのを待つ大の里。
     ここまではいつも通りの大の里だった。
    
     しかし、この後の相撲はまったく一方的なものだった。
     鋭く前に出た豊昇龍が大の里をもろ手突きで攻めると、体が起き上がった大の里は何もできずにそのまま押し込まれてしまった。
     わずか数秒での「押し出し」。
     大の里はまったく良いところなく破れてしまった。
    
     これで優勝の行へは、16年ぶりとなる横綱同士の優勝決定戦にもつれ込んだ。
     何もできなかった大の里。
     この相撲を大の里は「欲が出てしまった」と語った。
    
     前の晩、優勝を狙う大の里に師匠の二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)は、こんな言葉を授けていた。
     「淡々といきなさい。考える必要はない」
     それは優勝を意識しないで自然体でぶつかっていきなさいというアドバイスだった。
     それができず「勝ちたい」と欲が出てしまった大の里。
    
     優勝決定戦のために支度部屋に戻った大の里。
     自分に言い聞かせたのは師匠の言葉だった。
    
     無心で臨んだ優勝決定戦は、立ち合いですぐさま得意の右差しの体勢になるとそのまま体を預けて圧力をかけ、最後は豊昇龍にかぶさるように寄り倒しでそのまま土俵下に落ちていった。
     流れのままに相手を圧倒した、まさに考える間もない無心の相撲だった。
     「本割が最悪の相撲だったので、これ以上、マイナスはないと思って逆に吹っ切れた。(本割は)欲が出てしまった自分がいた。優勝決定戦は思い切っていけた」
    
     優勝を前にして勝ちたくない力士などいるはずがない。
     ではどうすれば勝てるのか。
     その答えが二所ノ関親方の言葉なのだろう。
    
     淡々といつもの自分で勝負する。
     欲が出るといつもの自分ではなくなってしまう。
    
     ここに相撲の難しさがある。
     いや、相撲に限らず何事にも通じる私たちの「心と体の関係」がそこにあるのだ。
    
     どんな時も淡々と臨む。
     難しいことだが、それが最強の態度だと二所ノ関親方が言っている。
    
    
    

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