【令和の断面】vol.147「中学の野球部を救え」

令和の断面


「中学の野球部を救え」

 いよいよ野球のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)が始まる。
 アメリカから侍ジャパンに合流した大谷翔平(エンゼルス)が、6日に京セラドーム大阪で行われた阪神との試合(カーネクストWBC強化試合)でいきなり2打席連続ホームランを叩き込み、日本中をWBCモードに引き込んだ。
 はやり役者違うということか?
 注目の日系選手、ヌートバーもタイムリーを放ち、これで準備は出来上がった。
 さて、日本代表はどこまで勝ち上がるのか…と、予想を楽しみたいところだが、
 それは他のメディアがいくらでもやってくれるので、本稿では先日の中学部の活動について続報を書きたいと思う。

 大谷翔平を筆頭に、侍ジャパンのメンバーのほとんどは、中学の野球部には所属していない。甲子園に出場してプロ野球を目指すような選手は、中学から地域のクラブで硬式野球に取り組んでいる。もちろん中学の野球部で軟式をやってから高校野球部に入部する選手もまだまだたくさんいるが、今は甲子園に出場する選手の大半が硬式野球出身の選手だ。高校野球は、1年生から3年生の夏まで実質2年数か月しかない。硬式のボールに慣れるのにそれなりの時間がかかる。その点、中学から硬式に親しんでいる選手に、時間的なアドバンテージがあるようだ。

 ということで、中学の野球部員は全国で激減している。かつては30万人いた中学野球部員も今では20万人を切っている。ただ、硬式で野球やっている選手は増えているのが実情だ。

 中学の部活動が今、どうなっているのか?
 京都市の現状を視察してきた。

 ある中学校の野球部員は2人。
 これでは試合はもちろん練習だって思うようにできない。
 そこで近隣の中学校と合同チームを作って、一緒に練習したり合同チームで大会に出場したりすることになる。
 野球に限らず、こうした部員不足が多くの中学で起こっていることだ。
 このままでは部活動がどんどんなくなってしまう。
 そこで、いままでの学校単位の活動に加えて、地域でスポーツに取り組める環境をつくる。それが先日紹介した中学部活動の地域移行のひとつの理由だ。

 そして、もう一つの理由が指導教員にかかる負担の大きさだ。部活動の顧問になると平日の放課後はもちろん、土日も部活動で忙しくなる。しかもそうした活動は、ほとんどボランティアベースで行われている。これを解決するために、週末は外部の指導者に活動を担ってもらう。それが地域移行のもうひとつの狙いだ。

 京都市内、ある中学校の女子バレーボール部の練習を見せてもらった。
 土曜日の練習だったが、そこでは先生の負担を軽くするために近隣の大学バレーボール部の部員が練習を手伝っていた。京都市の部活指導員という立場を得て定期的に部員たちの指導に当たっている。
 子どもたちにも話を聞いたが、大学生コーチの評判も良く、こうした形の指導システムが機能していた。
 問題は、全国各地、それぞれの地域でどうやってこうした外部コーチを見つけていくか?ということだろう。

 少子高齢化の中で、子どもをどうやって増やすかという課題が議論されているが、
その議論と並行して、どうやって子どもたちにスポーツを楽しめる健康的な環境を用意するかという「教育の質」の部分を置き去りにすることはできない。
 動き出した中学部活動の地域移行は、日本のこれからの若い力を育てることにつながる。
 WBCを見て、中学生になったら野球部に入ろうと思う子どもたちもたくさんいるだろう。そうした子どもたちの受け皿をしっかり作らなければ、野球界の将来も日本の未来も危ういものになる。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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