【令和の断面】vol.182「藤波朱理の極意」

令和の断面

 レスリング女子52キロ級で公式戦「130連勝」を継続中の藤波朱理選手
(日体大2年)は、もうすでに24年パリ五輪代表を内定させている。
 中学2年生から公式戦で負けていないというのだから、とんでもない怪物だ。身長164センチの長身を生かして、あらゆるレスリングスタイルで相手を翻弄する。中でも必殺技は、電光石火の片足タックルだ。

 その藤波選手が、試合に向かう心境とレスリングに対する思いを次の様に表現している。

 「試合は発表会。レスリングはゴールがないと思うので、突き詰められるところまで強くなりたい」

 この言葉を聞いて、さすがに強い訳だと納得させられた。

 「試合は発表会」
 この考え方がもたらす心身への影響には様々なものが想像できる。
 まず、「何が何でも勝たなければいけない」というような力みがない。というより勝利というものから解放されている。発表会で自分の持てる力をすべて発揮する。そうすれば「勝利は自ずとついてくる!」といった心持だろうか?
 そして発表会には、自分を見に来てくれるお客さんがつきもの。
 試合があれば、その中心にはつねに自分がいるのだ。
 そこには、選手としての揺るぎない自信も見て取れる。

 「レスリングはゴールがない」
 「突き詰められるところまで強くなりたい」

 こちらはまさに連勝を続けられるメンタルといえるだろう。
 レスリングにゴールがないのだから、いくら勝っても満足することはない。おまけにたとえ勝ってもその内容に納得がいかなければ、さらにその先を突き詰めることになる。
 才能に溢れた天才的な選手が、こうした姿勢で日々の練習に取り組んでいたら、その人を相手にする選手も容易なことでは勝てないだろう。

 まったく同じような考え方で野球に取り組んでいるのが大谷翔平選手だ。
 彼もまた、どんな偉業を成し遂げても満足を知らない男だ。

 ただ、こうした姿勢が選ばれた人だけの特殊なものかと言えば、そうではないと思う。

 私も前述二人に比べて技量は到底敵うはずもないが、それでもプロ野球に在籍していた者として彼らの思考とその喜びを想像することができる。

 結果を恐れずに誠心誠意、その対象(競技)と向き合うと、それは本当に楽しい時間なのだ。

 邪心を捨てて、上手くなるためにすべてを賭ける。
 その領域に入っていくと、もちろん苦しいこともたくさんあるが、何とも言えない満足感や快感が待っているのだ。
 だからこそ、「もっと」「もっと」と続けることができる。

 どんなことでも発表会だと思えば、少しはプレッシャーから解放されるはずだ。
 私もそんな姿勢で、大事な場面を乗り越えていきたいと思う。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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