■「いいもの」って何だろう
バットでもグローブでも、いまはスマホで何回かタップすれば、翌日には玄関に届く。値段も比べられるし、使った人のレビューも読める。便利なのは間違いない。それでも私は、野球専門店までわざわざ足を運ぶ価値はある、と思っている。だから、いまも自分の足で通っている。今回はその魅力を、少しでも伝えられたらと思う。
ベースマンは、バットもグローブもスパイクも一通り揃う野球専門店だ。柏、飯田橋、大宮に店を構えている。じつは私自身、学生時代にお世話になった場所でもある。今回はそのベースマンで、星店長に話を聞いた。
星店長がまず言うのは、いきなり高いモデルや上位機種に飛びつかなくていい、ということだ。「いいもの」というのは値段やスペックのことではなくて、その子の用途に合っているかどうか。だから初回で無理に買う必要もない。2回、3回と通って、チームの貸出を借りたり、友だちの道具を振らせてもらったり。そうやって少しずつ、自分に合うものを絞り込んでいけばいい。店員と話しながら、情報を整理していく。一度にあれもこれもと詰め込むと、かえって混乱してしまうから、そのあたりは様子を見ながら、と。
バット選びでも、「飛ぶかどうか」より先に来るものがある、という話だった。本人がしっかり振り切れること。長さが体に合っていること。そこが土台で、特性うんぬんはその次。ブランドでいえば、ミズノは全カテゴリーを通して丁寧に作り込まれている、というのが星店長の見立てだ。
グローブはもっとそうだろう。革製品は個体差が大きくて、同じモデルでも一つひとつ違う。実際にはめてみて、フィットや手の動きを確かめないと分からない。ネットだけで選びきるのは、やっぱり難しい。店頭で何個か試して、スタッフに使い方を教わりながら決める。低学年にはローリングスのスターター向けが人気だ、という話も出た。
■買うことは、急がなくていい
——と、ここまでは「専門店で買うといい理由」として読める。ただ、話していて面白かったのは、むしろ買うこと自体は急がなくていい、というところだった。
実物に触れる。並べて比べる。誰かと会話する。その体験自体に意味がある、と星店長は言う。自分でこれを選んだ、という理由——言ってみれば小さなストーリーが、その子のなかに残る。それが「続けたい」という気持ちに、どこかでつながっていく。道具は、買って終わり、ではないらしい。
専門店という場所が担っているのは、たぶん物販だけではない。スタッフは会話を歓迎するし、道具を介すと、子どもとも話のきっかけがつくりやすい。進路やチーム選びの相談に、第三者の視点から情報をくれることもあるという。そのときも、どこかのチームの方針を否定するわけではなく、あくまで中立に、という線は守りながら。一種のセカンドオピニオン、という言い方ができるかもしれない。
考えてみれば、店には同じ野球好きが集まってくる。監督がいて、保護者がいて、いろんな立場の人が出入りする。地元チームの掲示や大会の情報、スパイクやアップシューズの指定色といった細かい知識まで、そこに集まっている。情報のハブ、と呼んでもいいのだろう。平日の11時、開店直後に覗いても、もう年齢も立場もばらばらな人たちで賑わっていた。
最後にもう一つ。道具選びは「お父さんの役割」と決まっているわけではない、ということ。母親も、家族みんなで来て、一緒に決めていい。当たり前のようでいて、案外そう受け取られていない気もする。
首都圏の外でも、地域に根ざした野球専門店はある。大型店が近くになくても、そういう店を頼る価値は、たぶん十分にある。
結局のところ、最後に買ったバットが何だったか、よりも、それを選ぶまでに費やした時間のほうが、後から効いてくるのかもしれない。星店長の話を聞きながら、そんなことを思った。ポッドキャスト番組(野球ママへの応援歌)で紹介しているので、もし興味がある方は星店長の話をたっぷり聞いてみてほしい。
楢崎 豊(NARASAKI YUTAKA)