WBCの会場でもあったマイアミ・ローンデポパーク
■ボールの話やピッチクロックの話も
2026年のWBCでは侍ジャパンはベスト8で敗れ、大会後は采配への批判や選手起用の是非をめぐる議論が続いている。
それ自体は事前の流れかと思う。ただ、取材を重ね、記事をまとめたり、周囲と話をしたりしていると「WBCで勝つための話」と「日本野球が抱えている構造的な問題」が、同じ文脈でまとめて語られてしまうことが多いな、と感じている。
この二つは無関係ではない。だが、本質的には少し違う話だと思っている。
WBCで次に勝つために必要なことは、ある程度見えてきている。データに基づいた緻密な起用、リリーフ陣の整備、ピッチクロックへの適応も含めて、次の大会までに手を打てる話も多く、議論は続けられている。
一方で、もっと時間のかかる問題がある。たとえば使用球。NPBの公式球と国際試合で使われるボールは異なる。打球の飛び方も変化球の感触も違う。WBCに出た投手が「別物だ」と語るのは珍しくなくて、今に始まった話ではない。これは個人の慣れの問題というより、日常的に使う道具が違うという環境の問題だ。
そして、移籍制度。現行のFA制度では権利を得るまでに8〜9年かかる。選手が国内外を動きにくい構造になっていて、海外で得た経験がNPBに還流しにくい。これは侍ジャパンの強化というより、日本野球全体のレベルをどう上げていくか、という話に近い。
■でも、繋がってはいる
ただ、この二つが完全に切り離せるかというと、そうでもない。
使用球が国際基準に近づけば、WBC球への違和感は減る。移籍制度が柔軟になれば、海外経験を持つ選手が代表に入りやすくなる。構造的な部分が変われば、じわじわと代表にも返ってくるものがある。
整理すると、まず道具と環境の話から着手はしていきたい。NPBの公式球を国際基準に合わせること、ピッチクロックやピッチコムを導入すること、などが挙げられる。簡単なことのように思えるが、そうではない。ボールが変われば投手の感覚も打者の反応も変わる。ピッチクロックも、テンポの話というより、野球の「間」をどう扱うかという文化の話に近い。反発が出るのはわかるが、世界の主要リーグがすでに動いている以上、「うちはうちのやり方で」と言い続けるのも、だんだん難しくなってきている気もする。
海外移籍もそう。FA権を得るまでに8〜9年かかる現行制度では、いざ動けるころには全盛期が過ぎていることも多い。レンタル移籍のような柔軟な仕組みを取り入れて、選手が国内外を行き来しやすくなれば、メジャーで得た感覚や経験がNPBに戻ってくる流れも生まれやすくなる。そういう循環が少しずつできていけば、と思っている。
リリーフの育成と、データ分析の浸透も向き合っていかないテーマだ。短期決戦、特にベネズエラ戦で見られたように中盤以降を任せられる投手の質は勝負に直結する。日本は今回、大会前に3人のリリーバーが離脱してしまったことも不運だった。データ分析も、球団ごとの差がまだ大きい。代表だけが精度の高いデータを使っても、それに慣れていない選手には届きにくい。NPBの日常の中にデータを使う文化が根づいていけば、代表の戦い方にもじわじわ出てくると思う。
決して、関係者が問題を放置しているわけではない。ピッチクロックの導入検討、使用球の統一に関する議論、移籍制度の見直し。NPBの内部でも話し合いは続いている。ただ、制度を変えるのはそう簡単ではない。球団の利害もあるし、変えれば別のところに影響が出る。時間がかかるのは、怠慢ではなくて構造上の問題でもある。
今大会の結果を受けて、「変わらなければ」という意識が現場に広がっているのは感じている。それが実際の変化につながるかどうかは、もう少し見てみないとわからない。
WBCで優勝することと、日本野球が世界と対話できるリーグに育っていくこと。どちらも大事で、どちらかだけでいいとは思っていない。ただ、そのための処方箋は少し違う。そこを混同したまま議論を続けると、何かを変えたつもりで、何も変わらないことになりかねない気がしている。
楢崎 豊(NARASAKI YUTAKA)