【令和の断面】vol.79「野球とソフトボール 金メダルは新しい戦いの始まりだ」

令和の断面


「野球とソフトボール 金メダルは新しい戦いの始まりだ」

 8月8日、東京五輪が閉幕した。
 コロナ禍で開催された今回の五輪は、一部の競技を除いてそのほとんどが無観客で行われる異形の祭典となったが、大きな混乱もなく17日間の戦いを終えることができたのは、運営の準備に奔走してきた人たちと、多くの医療従事者、ボランティアの方々の頑張りのおかげである。いまだに開催の是非をめぐる議論も続いているが、この難しいミッションをやってのけた方々への感謝と敬意を忘れてはならないだろう。

 日本選手の活躍は、金メダル27個、銀メダル14個、銅メダル17個、史上最多の58個のメダルを獲得したことに表れている。自国開催のアドバンテージはあったものの、コロナ禍にあって多くの選手が満足に練習もできない日々を経験している。そうした環境下にあっても、練習を工夫し、モチベーションを維持しながら必要な準備を怠らなかったことが好成績につながっているはずだ。

 多くの人がテレビを通じて好きな選手を応援したり、はじめておこなわれる新競技に目を奪われたりしたことだろう。スケートボードやスポーツクライミング、サーフィンなどで躍動する若い選手の活躍は、「自分もやってみたい!」と多くの子どもたちにそのスポーツを始めるきっかけをもたらしたにちがいない。スタンドやアリーナで実際に「生」で観る機会があれば、そうした影響力はより強く働いただろうが、テレビやインタネット放送、YouTubeでもその魅力は十分に伝わったはずだ。

 今回の五輪では33競技、339種目が行われたが、その競技と種目の数だけ、五輪とスポーツの魅力がアピールされたことになる。筆者が願うことは、非常に難しい大会にはなったが、この機会を通じて明日を担う子どもたちが少しでもスポーツを好きになって、「多様性と調和」という理念を実感して欲しいということだ。

 27個の金メダルはどれも素晴らしいが、筆者は野球をやっていたので稲葉篤紀監督率いる侍ジャパンの活躍はうれしいものだった。出場国は6チーム。戦力的には日本が一番充実していたので期待通りの活躍と言えるだろうが、侍ジャパンが背負っている使命は勝つことだけではなかった。
 近年、日本の野球人口は激減している。
 野球に取り組む子どもたちが明らかに減っているのだ。
 例えば、平成21年(2009)に30万人いた全国の中学の軟式野球部員は、平成29年(2017)には17万人余りになっている。高校野球の新入部員もこの10年で1万人以上減って5万人ほどになっている。その現象は、少子化のスピードを大きく上回っているのだ。
 こうした現状を少しでも改善するために侍ジャパンの選手たちには、子どもたちに「野球の面白さ」をアピールして欲しいと思っていたのだ。
 今回、その使命は十分に果たしたと思うが、野球の置かれている現状は依然として厳しいままだ。

 次回のパリ五輪では、野球の不採用がもうすでに決まっている。五輪において、野球はその魅力をアピールする機会を約束されていないのだ。
 2024年のパリに続いて予定されているのは、2028年のロサンゼルス五輪だ。野球が盛んなアメリカだけに復活を期待する声は大きいが、魅力的な新競技がさまざま採用されている近年の五輪では楽観できない。
 問題は、MLB(メジャーリーグ)にかかっていると言われている。
 多くの人は忘れているだろうが、今回の東京五輪の最中でもエンゼルスの大谷翔平選手はずっと試合を続けているのだ。IOCとMLBが敵対しているわけではないが、MLBはIOCにも負けない巨大組織だ。MLBが五輪にメジャーリーガーを出場させることはないだろうが、ロサンゼルスでの五輪開催にあたって、どのような姿勢を見せるかが、野球の採用に大きな影響を持つ。これは野球とセットで行われるソフトボールも同様の運命にある。

 野球とソフトボールは、今回の五輪で見事に金メダルを獲得したが、喜べるのも束の間、
28年への戦いは、もうすでに始まっているのだ。

青島 健太 Aoshima Kenta

昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテナで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。

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