【令和の断面】vol.149「最強のアスリート国枝慎吾」

令和の断面


「最強のアスリート国枝慎吾」

 車いすテニスの国枝慎吾さん(39歳、ユニクロ)が、国民栄誉賞を受賞された。
 17日には、首相官邸で行われた表彰式にも出席した。
 誰からも文句の出ない、最強のアスリートの証しだ。

 先日、都内のホテル(あるスポーツ賞の贈呈式)で国枝さんをお見かけした。
 高さ1メートルほどのステージには、国枝さん用にスロープが作られていたが、
 その坂を勢いをつけて一気に登り、最後は車いすの前輪を上げてウイリーでステージの中央に颯爽と現れた。そんな乗り方は彼にとっては朝飯前だろうが、車いすとの一体感が強さの秘密でもあると感じた。

 国枝さんについては、去年の秋にこのコラムで書いた。
 しかし、その時の主役は対戦相手の小田凱人選手だった。
 10代の小田選手にきりきり舞いさせられた国枝さんだったが、最後は豊富な経験が物を言って襲い掛かる新鋭を退けた。
 一旦は負けを覚悟したのか、試合後にはこんな本音をこぼしている。

「いつかやられる日が来るだろうなと、それがこの日かなと思った」

 しかしインタビューの最後には、こう言って笑いを誘った。

「まだまだおじさんパワーを見せるぞと思って戦った。もう少しだけ勝たせてくれよという気持ちです」

 この時にはもうすでに引退が頭にあったのかもしれない。
 若い小田選手を、国枝さんはこう評している。
「すごく近い将来、世界のトップになる」

 そして今年1月、「もうやり残したことはない」と言って引退を表明した。

 グランドスラムは生涯50勝。
 パラリンピックで4個の金メダルを獲得。
 グランドスラム完全制覇とパラリンピック金メダルを合わせた「生涯ゴールデンスラム」も達成している。
 もうこんな選手は現れないだろう。

 そんな国枝さんでも弱気になる自分と戦うためにつねに自分に言い聞かせていたそうだ。

「俺は、最強だ!」

 これだけの選手でも、湧き起こる不安とつねに戦っている。
 大舞台を前に、私たちが緊張したり不安になったりするのも当然か?
 そんな時は、我々も「私は、最強だ!」と言い聞かせて臨むしかない(笑)。

 日本中に、いや世界中にパラスポーツの魅力をアピールした国枝さんの功績に心から敬意を表したい。
 そして、これからも彼の活動に注目していこう。

青島 健太 Aoshima Kenta
昭和33年4月7日生/新潟県新潟市出身
慶応大学野球部→東芝野球部→ヤクルトスワローズ入団(昭和60年)
同年5月11日の阪神戦にてプロ野球史上20人目となる公式戦初打席初ホームランを放つ。
5年間のプロ野球生活引退後、オーストラリアで日本語教師を経験。帰国後スポーツをする喜びやスポーツの素晴らしさを伝えるべくスポーツライタ―の道を歩む。
オリンピックではリレハンメル、アトランタ、長野、シドニー、ソルトレークシティー、アテネで、サッカーW杯ではアメリカ、フランス、日韓共催大会でキャスターを務める。
現在はあらゆるメディアを通して、スポーツの醍醐味を伝えている。
2022年7月の参議院議員選挙で初当選。
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